やわらかな光と風にのって 家族の笑顔と気配が循環する 着ごこちの良い住居
- DATA
- 設 計: 建築設計室ant
(担当/池原和明) - 敷地面積: 321.19㎡(約96.96坪)
- 建築面積: 107.58㎡(約32.47坪)
- 延床面積: 102.93㎡(約31.07坪)
- 用途地域: 第一種低層住居専用地域
- 構 造: 壁式鉄筋コンクリート造
- 完成時期: 2024年4月
- 建 築: ライト建設株式会社
(担当/又吉孝汰) - 電 気: 株式会社優でんき
(担当/大湾優) - 水 道: イトス設備工業
(担当/糸洌学) - キッチン: タカラスタンダード株式会社
築年の古い外国人住宅を建て替えて、床面積31坪の平屋を新築したIさんご夫妻。
行き止まりがなく家の中をぐるぐると回遊する動線は生活効率を高め、断面操作によって生まれた縦方向のボリュームが居場所と明るさを補ってくれます。
どこにいても家族の気配が感じられ、笑顔が絶えない濃密な毎日を過ごしています。
週刊かふう2024年12月6日号に掲載された内容です。
家族が自然と集まるLDKは木に包まれたような安心感
夫婦と子ども3人、気付けばリビング周辺に三々五々と集まり長時間過ごしているのは、居心地の良い証し。頭上を覆う板張りの勾配天井が木の温かみある雰囲気を演出し、高さ3.5メートル近い位置にあるハイサイドライトからやわらかな自然光が降り注ぎます。南面に並んだ掃き出し窓越しには緑鮮やかな芝庭を望み、新居が完成した今年4月以前も同じ場所で暮らしていたとは思えないほど、うっとりするような時間が流れています。
「上2人の子どもにはきちんと個室を与え、大人用の書斎も設けつつ、皆が常に顔を合わせてお互いの気配を感じられる環境をつくりたかった。建築士さんと相談しながら、希望通りの家ができました」とご主人。
キッチンから庭に向かって真っすぐ広がるLDKの隣には、壁を1枚挟んで主寝室・ファミリークローゼット・子ども室が並んでおり、いつでも自由にそれぞれの場を行き来できます。
「建物のサイズ自体は、建て替え前の外国人住宅とあまり変わらないんですけどね。部屋が大味に区切られていて開放感がなかった以前の間取りと比べると、雰囲気がまるで一変しました」。
依頼した建築士のことはネットで知りました。Iさんは結婚後、ご主人が幼少期を過ごした外国人住宅を長らく生活拠点にしてきましたが、老朽化が進行したため2年ほど前に建て替えを検討。情報収集の最中にインタビュー動画を見て共感を覚え、早速アポイントを取りました。「敷居が低くてどんな要望もまずは受け止めてくれる。こだわりが強いと自覚していた私たちよりもはるかに建築士さんの意識の範囲は広く、設計中も建築中も信頼しきっていました」と振り返ります。
ストレスフリーで動きやすい回遊性のある生活動線
Iさん宅の平面形状はシンプルな長方形。平屋ですが、家の南側半分を傾斜屋根にしたことで室内の天井高に変化が生まれ、リビング周辺には吹き抜けのような開放感が漂っています。リビングと隣り合う、子ども室と反対の位置には和室があり、普段はLDKと一体的に使いつつ、障子戸を閉めればゲストルームとしても活用できます。和室の周囲にはぐるりと廊下が巡り、水回りスペースが効率的に配置されています。
「共働きなので家事負担を極力減らせるように、掃除しやすいレイアウトにすることが大きな要望の一つでした。動線には行き止まりがなく、何をするにもあちこちからアクセスできるので、動きやすくて大満足です」と奥さま。浴室・洗面脱衣室からつながる物干し場へは、キッチン側からも直接出入りでき、回遊性のある動線が幾重にも循環しています。
玄関脇にある夫婦共用の書斎は、床下収納の上に重ねた2層構造。廊下や他の居室とは床のレベルが異なるため、戸を開けたままでも”おこもり感”があって仕事に集中でき、まだまだ幼い末っ子と一緒でも収納スペースで遊ばせておけば、親子共に安心です。
「庭を含めて空間全体がつながっているので、子どもたちがどこにいても目と声が届く。外塀の上に置いた木製フェンスのおかげで通りからの視線も気にならず、日中はカーテンを開け広げたままのびのびとくつろげます。住み始めて約半年、今後も今の快適な状態をキープできれば」。
装いも使い勝手も一新したわが家で、Iさんファミリーの新たな歴史が紡がれていきます。
写真ギャラリー
無駄のない平面プランと片流れ勾配屋根で平屋の空間に変化とゆとりをプラス
自分時間を大切にしつつリビングに自然と家族が集う、団らんを育むレイアウト
木を感じるインテリア、採光・排熱に有効な高窓。傾斜屋根がもたらす高天井を上手に活用
一級建築士:奥原和明さん
今回の建て替え・新築にあたってのIさんの一番の要望は、自然と団らんが育まれる環境をつくること。子ども室が充実しすぎてしまうと、滞留時間が長くなって逆に家族間に距離が生まれてしまうことを懸念されていました。そのためリビングと子ども室の位置関係にはとりわけ気を配り、それぞれの部屋に出入りする際には必ず家族と顔を合わせるようにレイアウトを計画。空間的にも完全に閉じることはせず、子ども室と主寝室との間に共用のクローゼットを置いて両方向から使えるようにすることで、バックヤード上のつながりを保ちました。
また3人目のお子さまは年齢が離れているためあえて人数分の部屋は用意せず、ライフステージの変化に応じて使い分けられるように可変性のある設計としました(「家づくりのヒント」参照)。
計画地は三角形状の変形地で、広さは100坪弱。実用性やコストバランスを踏まえて平面プランは極力コンパクトにまとめ、断面方向の操作で空間に変化を加えました。具体的には、庭に面して片流れの傾斜屋根を架け、勾配によって生まれた天井高を利用してリビング回りに開放感を創出。勾配部分にはフローリングと同系色の板材を張り、木に包まれたような落ち着きある雰囲気に仕上げました。
天井最上部に並べたハイサイドライトは、排熱・換気に有効な開閉式にすることも検討しましたが、操作する手間や即応性などを考え採光専用のFIX窓に。代わりに換気扇を設置して、機械的に熱と空気を送り出す仕組みを整えました。
また傾斜屋根がもたらす外観のプロポーションも意識しており、伊是名村にある銘苅家住宅などを手本にして、軒の高さは地面から2.4mに設定しています。
建築中はIさんと施工業者を交えた工程会議を2週間ごとに開催。工事を担う作り手と住み手が直接顔を合わせてコミュニケーションを図ることで信頼関係が深まり、よりイメージに即した家づくりができると考えています。
設計・施工会社
建築設計室ant(アント)
TEL:098-943-1418 | http://www.ant-architec.com