ロングセラーズ by module #5 座り心地のよい椅子
週刊かふう2024年 3月15日号に掲載された内容です。
座り心地のよい椅子
キャプテンチェア/柏木工
カフェチェア/柏木工
ヤナギチェアT-3035/天童木工
イームズウッドシェルチェア/ハーマンミラー
MD901A/AD CORE
FINO アームチェア/AD CORE
CH26/カールハンセン&サン
J39モーエンセンチェア/フレデリシア
素材と技術が織りなす心地よさ
春は新生活をスタートする季節。その準備の中で、椅子の購入を検討している、という人もいるでしょう。もし、少し奮発して良い椅子を……と考えているなら、ぜひこの記事も参考にしてください。
今回フォーカスするのは、“座り心地のよい椅子”。“座り心地”とひと口に言ってみましたが、そこにはさまざまな技術が存在します。素材についても、木をはじめ、プラスチックや生地張りなどがありますし、素材によってその加工方法もさまざま。もちろん、座り心地も違いますから、ぜひショップで実際に座ってみることをおススメします。ご自身に合った一生モノの“座り心地のよい”椅子を見つけてください。
ここでは、座面の素材・加工別に、座り心地にこだわった名作の椅子を紹介します。
Type1 板座・無垢
無垢の木を削り出した椅子。長時間座っても疲れないよう、座面をお尻の形にフィットするよう加工されています。
キャプテンチェア
家具の産地や木工所には、それぞれ得意とする技術があるものですが、岐阜県の飛騨高山には、無垢の木の削り出しが得意なメーカーが多数存在します。その中でも柏木工は“高山ウッドワークス”というブランド製品を展開しており、一時アメリカに多く椅子を輸出していた経緯があります。その後継品が「キャプテンチェア」です。日本人向けにサイズダウンされたキャプテンチェアはウィンザーチェア(※)の定番スタイルの名称でもあります。
無垢の木の椅子の難点として挙げられるのが、重いこと。しかしキャプテンチェアは格段に軽く、さらに丈夫さと座り心地を兼ね備えています。
※17世紀後半からイギリスで製作され始め、上流階級から現在では一般に広く普及した木製の椅子。
カフェチェア
その柏木工の優れた木工技術と巨匠・岩倉榮利のデザインがコラボして生まれたのが、「カフェチェア」です。
蒸気で蒸して木を曲げる曲木の技術と、丁寧な削り出し加工のウィンザーチェアスタイルが融合されたデザインで、少しゆったりした座面は、体が大きい方にもおすすめ。
Type2 板座・成型合板
第3回でも紹介しましたが、スライスした薄い板を貼り合わせた成形合板を3次元成型でお尻の形に合わせて曲げたもの。ミッドセンチュリー期に多くの名作が生まれました。
ヤナギチェアT-3035
日本では天童木工、デンマークではフリッツハンセンが得意とする技術。今回紹介するのは柳宗理の隠れた名作「天童木工 ヤナギチェアT-3035」。見た目は普通の椅子ですが、包み込まれるような背板と座面のホールド感が特徴です。
イームズウッドシェルチェア
もう1脚は、「イームズウッドシェルチェア」。もともとはグラスファイバーで作られており、アメリカのミッドセンチュリー期の代表的な製品。その後、FRP製(プラスチック)となり模倣品が多く出回ったため、最も多く目にするデザイナーズチェアではないでしょうか。1940年から取り組んでいた成形合板は当時の技術では実現が叶いませんでしたが、3D成型技術の進歩により木製バージョンがシリーズに加わりました。
Type3 張座
ウレタンやバネのクッション材に、生地や革を張って座り心地を作る張座の椅子。ここでは、素材と加工方法が異なる2つのタイプを紹介します。
MD-901A
背もたれは成型合板にウレタン+生地、座面は木のフレームに布バネ(ダイメトロール)とウレタン+生地張。ラウンジチェアとダイニングチェアの両面を持ち、包み込まれるような背中のホールド感と底付き感のないソファーのような極上の座り心地です。
実は古い歴史があり、ヨーロッパで王室や貴族などの椅子として作られていました。現代ではホテルのバンケットルームやレストランなどでよく使われています。
FINO アームチェア
イタリア語で「薄い、細い」を意味する『FINO』という名に違わず、シャープで軽量なスタッキングチェア。発売から25年経った今でも人気があります。お尻の形に曲げた成型合板のフィット感にウレタンの柔らかさをミックスした程よい座り心地です。
Type4 ペーパーコード
ペーパーコードとは樹脂を含ませてよった紙ひものことで、もともとは農作業に用いていた素材。強度があるため、北欧の椅子に転用されるようになりました。硬く張っていて適度なしなりが心地良い素材です。
CH26
ラウンジチェアCH22のダイニングバージョンとして1950年にハンス・ウェグナーがデザインしていますが、製作に手間がかかり、大量生産が難しかったため製品化には至りませんでした。その後、近代化による技術の発展により、2016年に初の製品となりました。
ゆったりとしたボリューム感とペーパーコードのしなり、成型合板の背板と無垢板のアームが、座り心地の快適さを作り出しています。
J39モーエンセンチェア
デンマークのボーエ・モーエンセンが、“一般庶民のための椅子”をコンセプトに5年の歳月をかけて1947年にフレデリシアから発表しました。別名“ピープルズチェア(みんなの椅子)”としてデンマークでベストセラーとなり、70年以上作り続けられているモーエンセンの名作です。小ぶりでシンプルなデザインの椅子。
※価格はすべて税込で、『週刊かふう』掲載時のものです