稲嶺さんの失敗談から学ぶ相続対策 Vol.1「平均寿命と健康寿命の違いがうむ失敗談」
72歳のヨシ子さんは、夫に遺言書の作成を望んだものの、意思能力の低下により断念せざるを得ない事態に! 相続対策における健康寿命の重要性を教えてくれる事例。
週刊かふう2024年4月12日号に掲載された内容です。
お悩み事例
先日、比嘉ヨシ子さん(仮名72歳)とタケオさん(仮名76歳)ご夫婦が相談に訪れました。相談内容は以下のとおりです。
ヨシ子さん「夫の記憶力の衰えが進んでおり、可能な限り早く遺言書を作成したい」
ヨシ子さんは、二人の息子に対して、将来的に夫に相続が発生した場合、安心して財産を引き継げるように、またタケオさんが希望している財産の分け方を実現したいと考えています。くわえて遺産分割の協議が必要となった際に次男の配偶者Aさんが口出しすることで協議が複雑化する可能性についても懸念を抱えていました。
残念ながら、タケオさんには遺言書を作成するための必要な意思能力(自分が行う法律行為の意味を認識し判断できる能力)がないことが明らかになり、遺言書の作成は断念せざるを得ない状況に至りました。これにより、将来的にタケオさんが亡くなった場合、ヨシ子さんは息子たちと遺産分割協議を行う必要が出てきます。このため、家族間での円滑なコミュニケーションを今から積極的に行い、将来に向けた合意形成に努めることの重要性をお伝えしました。
注:〈お悩み事例〉は、多く寄せられる相談事例を分かりやすい内容にアレンジ・脚色したものです。事実とは異なるケースもございますので、ご容赦ください。
〈失敗談からの教訓〉
元気なうちに対策を!
今回の失敗談から学ぶべき教訓は、「先のこと」と考え、後回ししないということです。この失敗の背後には平均寿命と健康寿命の違いを理解できていなかったことがあります。平均寿命は単に生存年齢を示す指標であり、一方、健康寿命は、健康な状態を保ちながら生活できる期間を示します。
具体的に、男性の場合、平均寿命は81歳ですが、健康寿命は72歳となります。この差が表す9年間は、健康に不安を抱えつつ生活しなければならない可能性のある期間となります。
このことから、遺言書の作成や相続対策は、自身が健康な状態で行う必要があります。健康状態は急激に変わることがあるため、後回しにしないで今から行動することが重要です。
<稲嶺さんのワンポイントアドバイス>
遺言書は、自分が亡くなった後にお金や財産をどう分けるかを書いたもので、法律で認められた形式で作ります。一方で、遺産分割協議書は家族や相続人たちが一緒に話し合って、財産をどう分けるか決め、それを書いたものです。
遺言書は、個人の意思を尊重する特徴がありますが、遺産分割協議書は相続人の意見に大きく左右されます。遺産分割協議書は全員の合意が必要で、合意が得られない場合、財産分配が難しくなり、争いの原因となる可能性があります。円満で安心な相続のためにも遺言書の準備がおすすめです。