稲嶺さんの失敗談から学ぶ相続対策 Vol.8「家賃は相続人全員に分けたい」
「アパートは長男に相続してほしいが、家賃は娘二人にも分けてほしい」という父親の想いに対する、将来起こりうるリスクと調整方法について考える事例です。
週刊かふう2025年11月8日号に掲載された内容です。
お悩み事例
一郎さんは8年前に父親が亡くなった際、築37年のアパート1棟を相続しました。父親の希望は、長男である一郎さんがすべての不動産を相続し、家賃収入を一郎さんと姉、妹の3人で分けることでした。そのため、これまで8年間にわたり、一郎さんは家賃の三分の一相当の現金を姉と妹に渡してきました。このお金は姉と妹にとって、生活資金として欠かせないものでした。
しかし、最近では建物の老朽化によりさまざまな問題が発生しています。入居者が変わるたびに内装工事の費用がかかる上、家賃は年々下がっており、8年前より収入は減少、一方、支出は増えている状況です。さらに、近い将来、アパートの防水工事や塗装工事のために多額の借り入れが必要になる見込みです。
一郎さんは、アパートのリフォームをやめて取り壊しも検討していますが、その場合、これまでのように姉と妹に現金を渡すのを中止したいと考えています。しかし、この提案に姉と妹の同意を得るのは難しそうです。
失敗談からの教訓
今回のポイントは、『一郎さんから姉妹への現金交付』に対する解釈の違いです。一郎さんは、家賃収入の一部を分けているのだから、修繕やリフォームの費用も姉妹に負担してほしいと考えています。
一方、姉と妹は相続財産として不動産ではなく現金を受け取る権利があると認識しています。この認識の食い違いが一郎さんの悩みとなっています。アパート運営には、実務面、法務面、税務面で専門的な知識が求められるため、元々は父親が生前のうちに専門家と相談し、対策をしておくべきだったと考えられます。
稲嶺さんのワンポイントアドバイス
一郎さんの考えを実現する方法としては、アパートを共有名義で相続することが考えられます。しかし、共有名義にはリスクも伴うため、慎重な検討が必要です。
一方、姉と妹の考えを実現する方法としては、代償分割が適しています。代償分割とは、特定の相続人が不動産などの現物を相続し、他の相続人に対して金銭などで調整を行う方法です。以下に代償分割のポイントを整理しました。