稲嶺さんの相続・終活知恵袋 Vol.10 1軒の自宅をどう分けますか?

「相続対策なんてお金持ちがするもの、私たちには関係ない」
このようなセリフを言ったこと、聞いたことがある方も多いと思います。しかしながら本当にそうでしょうか? 実際の現場において、相続をめぐるトラブルは決して富裕層特有のものではないと感じます。本日は身近に起こり得るトラブル事例をお伝えします。
週刊かふう2026年2月13日号に掲載された内容です。
よくある事例
どうやって財産を分けるのか……
父、母、長男、長女のとある4名家族。父と母は長男家族と同居をし、長女は結婚して県外に住んでいます。ある日父が病気で亡くなり、四十九日の法要も済んだころ、相続についての話し合いがもたれました。
父は遺言書を作成していなかったので相続人全員による遺産分割協議が必要になります。相続財産は自宅と銀行預金が数百万円ほど。長男は次のような提案を長女にしました。「自宅は同居している俺が相続して、今まで通り母さんの面倒を見ていきたい。預金は母に相続してもらって老後の生活に役立ててほしい」
しかし長女は自分だけ何も相続できないということが納得できず、自分の夫にこの件を相談し、「自宅を一部長女との共有名義にする」か「長男が長女に数百万円を支払うことを条件に自宅を全て長男が相続することを認める」いずれかの条件を長男に提示しました。
そこに更に反対意見が出たのは長男の妻でした。「私が父の看病を一人で見てきた。介護をした寄与分も考慮すべきだ!」と感情的な意見に話し合いはこう着状態。見かねた母が「法定相続分で分けたら良い!」と提案しましたが、むりやり法定相続分通りに分けようとすると、自宅が共有名義になり将来に禍根が残ります。また自宅を売って売却金を分けようにも、母と長男家族の住む場所が失われてしまいます。次第に家族間は気まずい雰囲気になり、疎遠となっていきました。

このようなトラブルはどうすべきか
父が遺言書を遺していれば、「妻が安心して老後の生活を続けられるように全財産を妻に相続させる」「自宅は長男に相続させるが、預貯金は長女と妻に2分の1ずつ相続させる」など、完全に平等とはいえないにしても納得感のある相続方法を示せたかもしれません。相続財産が自宅と銀行預貯金のみといったケースでは平等に相続させることは非常に難しいです。だからこそ親が自身の意思として遺言を遺すことに意義があります。子供は親が決めたことには意外と従うものです。
また遺言書に次のような付言事項もあればより相続人の納得感は増したかもしれません。
【付言事項】
私の人生、苦労や苦悩も多くあった。しかしそれ以上に幸せに満ちた日々を過ごすことができたのは妻がいたからだろう。本当に感謝している。長男と長女も立派に育ってくれて自慢の子供だ。私の願いはこの大切な家族がいつまでも仲良く幸せであること、それだけだ。
長男家族にはいつも世話になりっぱなしで申し訳ない。これからも妻のことを頼む。自宅は今後も妻が安心して暮らせるように、面倒を見てくれている長男家族に相続させるので、長女にはほとんど遺してやれず申し訳なく思っている。私が考え抜いて決めたことなのでどうか理解してほしい。長男は長女が困ったら必ず助けてやってほしい。いつまでも兄妹仲良く幸せでいてくれることを願っている(父より)。


