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琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 山から拾ってきた石

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 山から拾ってきた石

週刊かふう2022年9月9日号に掲載された内容です。

山から拾ってきた石

Q:100cmくらいの石を北部の山から拾ってきて、わが家の玄関に祀っています。本家のおじさんから「知らない石を勝手に置くとバチが当たるから、旧暦朔日・十五日に返してきなさい!」と怒られていますが、お気に入りなので返す気はありません。最近、カラスが追いかけてきたり、井戸に落ちたり、不幸続きです。これはバチなのでしょうか?(糸満市・Uさん・50代))

A:Uさん、100cmって、換算したら1mじゃないですか? その大きな岩? 石? を玄関に祀っているのですか? もうこのレベルでは、単なる観賞用ではないということでしょうね。石を大切にすることは、すてきな趣味かと思いますが、以下の観点から、その石、もとあった場所にお返されるのがいいのではないかと思います。

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 山から拾ってきた石

《沖縄の岩石信仰・ビジュル》

 沖縄には、岩石信仰という歴史ある文化があり、岩・石は、単なる岩・石でない、大自然を畏敬する、とても素晴らしいしきたりがあるといわれています。
『ビジュル』という名称を聞かれたことがありますでしょうか? 沖縄には、多くの地域に『ビジュル信仰』があり、『ビジュル』は沖縄の心の癒やしとなっています。

 当院にも、昔から、『コザ・ビジュル』があり、年間を通じて、多くの方々が参拝・観光されています。
『ビジュル』は民間信仰では、『ビジュル神(しん・がみ)』と神格化されることもありますが、本来の名称の由来は、お釈迦さまの一番弟子との名声高き、『賓頭盧尊者(びんずるそんじゃ)』さま、サンスクリット語では、ピンドーラ・バーラドヴァージャさまという十六羅漢さまのお一人のことをいいます。
 印度・中国・日本で敬われている『賓頭盧尊者』さまが、『賓頭盧(びんずる)』→『ビジュル』とウチナーグチになり、県外の木像の賓頭盧尊者さまと異なり、沖縄では、石を『ビジュル』と見立てるケースが多いことから、岩石を大切にする文化は、私たちの身近にもあるといえます。

《マブイグミとウミチムン》

 また、先の戦争など、大切な故人さまのご遺骨が不明な場合、終焉(しゅうえん)を迎えられたであろう場所にある石ころを3~12個(多くは7個)拾い上げ、マブイグミという、その石ころをご遺骨に見立てる考え方もあります。
 このとき、沖縄のしきたりの心得のある方々は、人間の思いにて、野にある石ころを拾い上げるのだからと、その石ころのある場所に、1円玉~500円玉(金額や枚数は、地域・家庭によって異なります)を地面に置き、等価交換するというしきたりを拝見したことがあります。
 その他にも、台所のヒヌカンの神さまの始まりは、ウミチムンという3個の石ころだったとか、岩石と共存する沖縄の素晴らしい文化には、枚挙に暇がありません。

 どの地域でも変わりありませんが、Uさんが持ち帰られた大きな石は、北部であれば、国定公園の石ではないかとの心配もあります。国定公園のものは持ち帰ってはいけませんから、この点も含め、Uさんの行動には、結果的に多くの課題が残っているように思えます。

 本家のおじさんからのアドバイスにもある、「旧暦朔日・十五日に返してきなさい」とは、沖縄にとって、とても大切な旧暦朔日・十五日の最中であっても、早急に返してきなさいという、沖縄に生まれ育てば、おのずと学ばせていただくことのできる、岩石を大切にする気持ちの表れではないでしょうか。北部から石を持ち帰ったUさんのお気持ちも、その石を粗末にすることなく、大切にお祀りされているので、その意味合いでは、本家のおじさんと同じお気持ちかとは思いますが。

 仮に、Uさんが、バチが当たっていると感じるのでしたら、100cmもある大きな石の声に耳を傾け、Uさんを気遣ってくださる本家のおじさんのアドバイスにも耳を傾けていただければと思います。

 大きな石をもとあった場所にお返しするときは、沖縄のしきたりにもあるように、硬貨を地面に置き、声なき大自然を畏敬できると、今回のことも人としての謙虚さを学ぶ、貴重な経験になるのではないでしょうか。ぜひとも、本家のおじさんに硬貨の金額や枚数をムンナレー(物習い)されてください(石のお返しが終わりましたら、そのお金は後から回収してくださいね)。

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