僕の好きな風景 第76回 天井を愛でる
杉板の曲線が空間を和らげ、暮らしに潤いを与える
週刊かふう2023年10月6日号に掲載された内容です。
海外を旅していると上を見上げている印象があります。
教会建築や立派な市庁舎の天井は壮大で美しく装飾され心奪われてしまいます。
教会は神に少しでも近づこうと、空へ空へと高く築く技術が発達し、天への意識が強くなるので見上げた時の天井面のデザインが重要になるのでしょう。
日本においても床は畳であっさりしているのですが、権力者の住まいの天井は豪華絢爛な装飾が施されています。
僕は市井の人々の住まいの設計が多いので、天井にはほとんど凝ることがありませんでした。
凝らないどころか、天井面には照明さえもつけない設計が特徴となっています。
意味のないデザインはしないこと、天井は暮らしを包み込むデザインでよく、上部への意識ではなく、水平面……開口部の向こうに意識を持っていく設計を好みます。
しかし、北欧の建築家、アルヴァ・アアルトの建築を見た時、決して華美ではないのに、天井のデザインの操作が空間を豊かにすることに気づきました。
それ以来時々、天井に意味を持たせる工夫をします。
特にアアルトのように柔らかな曲線で音の反射を和らげながら、空間をやさしく包み込み、躍動感を創り出す工夫に心を惹かれます。
合理的で無駄がないだけの設計は、暮らしが固くなってしまう……住まい手の醸し出す雰囲気に合わせて、暮らしを和らげる提案を積極的にやりたいと考えるようになりました。
写真は富山・高岡の家。
天井がうねりながら1階と2階を柔らかくつなげ、まとめています。
天井の曲線によって、室内がかわいらしくもなる