僕の好きな風景 第84回 建築と緑の乳化
南のベンチを囲うように樹木がスクリーンを形成している
週刊かふう2024年6月7日号に掲載された内容です。
先日、新しい単行本のために「甲府の家2」の写真を撮りに出かけました。
竣工後4年が経ち、建築と緑が渾然一体となりつつある佇まいに、建築とはこうあるべきだなあとつくづく思いました。
まるで建築と緑が「乳化」して、いい味出している感じかな? と……。
「乳化」という言葉を知ったのは20年ほど前、ある中国料理のレストランを設計した時のこと。
今やミシュランの一つ星に輝くそのシェフから、透明で澄んだスープの作り方を教わったときのことです。
水と油が混ざると、どろっと濁った状態になるので、油で炒めないで煮込めば透明な澄んだスープになると教わりました。
濁った状態をエマルジョンと言い、イタリア料理などでよく語られる「乳化」というパスタのソースをよく混ぜてどろっとした状態にすること。
普通には混ざることの無い「水」と「油」が、熱を加えてよく混ぜることで一体となってそれぞれを超えた旨みを出す……建築と緑の関係もそれに似ていると、新緑の季節は感じさせてくれます。
新芽の鮮やかな緑と古い濃い緑がグラデーションを描くように溶け合って、建築の木部が風雪に耐え、日射を浴びて色濃く変化し、土壁の自然素材の質感も相まって渾然一体となる。
彫刻のような純粋な建築物も澄んだスープのようでいいけれど、緑の力を借りて建築が緑を纏(まと)うように「乳化」して味わい深い佇まいになるのも良い。
それは家にとっても、町にとっても幸せなことだと思います。その内に町と家も「乳化」してお互いを高めていく……それも設計の重要なテーマです。
築5年目の「甲府の家2」。樹木が主役のように育ってきた
樹木のフィルターのおかげで昼間はほとんど室内が見えない