僕の好きな風景 第92回 間取りで建築はわからない
彦根の家の完成写真。ファーストスケッチで検討されたことが生かされている
週刊かふう2025年2月7日号に掲載された内容です。
「間取り」という言葉は一般的にはよく使われています。住まいの部屋割り、レイアウトとしてわかりやすいのでしょう。
しかし、建築家の世界ではほとんど使われない……むしろ避けられている言葉と言って良いと思います。理由は間取りでは建築や空間はわからないからです。「間取り」にこだわっていると良いものはできませんよと言いたいところもあります(笑)。
設計者は間取りだけで建築を考えていません。設計者にとって一般の方の「間取り」に該当する言葉は「プラン」です。平面図を指すことが多いのですが、設計を詰めていくことを「プランニング」と言い、総合的な設計行為を指します。平面を考えながら断面、立面(外観)、構造、設備のあり方や屋根の掛け方を同時に考えています。付け加えると空間(インテリア)のイメージや佇まいも考えながら、スケッチを進めていき、図面を作成します。
「間取り」というと建物のみの図面、あるいはパズルのような絵のようなものですが、敷地の隅から隅まで、あるいは周辺環境、お隣の窓の位置なども含めてスタディしていくので「間取り」という言葉にはかなり違和感を抱いてしまいます。
実は今、「間取りの本」を書いてほしいとの依頼を受けて進めています。編集者とライターに「間取りの本だけれども、間取りだけではいいものはできない」ことが伝わるような本にしたいとお伝えして奮戦中。
間取り優先の家づくりはあちこちに矛盾を抱えた醜い建築になりがち……。機能性と心地よさと建築の魅力を同時に考えるためにも間取りだけにとらわれることから脱却したいものです。
彦根の家のファーストスケッチ。平面と断面、立面も同時に考え、空間のイメージもスケッチする。その後、担当者に渡しCAD化する