基礎からわかる相続Q&A File.2 遺言と生前贈与、遺言書の注意点について
週刊かふう2022年1月21日号に掲載された内容です。
遺言と生前贈与、遺言書の注意点について
自分の財産を希望の誰かに譲る主な方法として、遺言書による相続と生きている間にできる生前贈与の二つがあります。いずれも一般的な方法ですが、個別の状況により双方のメリットとデメリットを検討する必要があります。遺言なら遺言書を作成することが前提となりますので、作成の際の注意点も見ていきましょう。
Q.私は、およそ40年前に住宅ローンを組んで家を建てました。名義は土地建物共、私の名義です。
この家で私と妻、そして娘の3人で暮らしてきましたが、昨年妻が亡くなってしまいました。娘の他には息子が2人いますが、息子2人はだいぶ前に独立して別に世帯を構えています。
妻が亡くなったことと昨今流行の感染症の状況から、いつ何があってもおかしくないと思い、私が死んだ後のことを考えるようになりました。私としては、私が死んだ後も一緒に住んできた娘にこの家を継いでもらい使ってもらいたいという気持ちです。
私の希望を実現するためには、どのような方法があるでしょうか。
A.仮に今、相談者が亡くなったとすると、娘さんの法定相続分は他のご兄弟と同じ3分の1ですから、土地建物についてうまく子どもさんたちの遺産分割協議が調わなかった場合には、土地建物については兄弟3人が平等に権利を取得しますが、それぞれ3分の1の権利しか取得できないということになりそうです。
相談者の希望に沿うかたちで不動産を娘さんに継いでもらう方法はいくつか考えられますが、一般的な方法としては、娘さんに生前贈与を行うか、遺言書を書くという方法があります。
生前贈与を行う方法は、相談者が生きている間に娘さんに不動産の所有権を移転し名義を換えるものです。確実に娘さんに不動産を引き継いでもらえますが、贈与税や不動産取得税などがかかり、家については相談者の権限が無くなるため、娘さんの管理や処分、経済状態によっては、相談者が利用できなくなる可能性もあります。
相談者が遺言書を書く方法は、遺言を作成することによってどの財産を誰が取得するかを指定するものです。遺言は遺言作成者の判断で撤回することもできますから財産を譲り受ける予定の人にとっては確定的ではない点はありますが、将来的に掛かる相続税も一般的には贈与税などがかかる生前贈与より税金を抑えることができます。
ただ、遺言の形式や方式は法的に厳格な定めがあるので注意が必要です。実務では、自分で遺言を書く自筆証書遺言と、公証人役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言がよく使われます。
自筆証書遺言は、遺言者がその全文と日付および氏名を全て自分で書き、これに押印をしなければなりません。添付する財産目録だけはパソコンで作ってプリントアウトすることもできますが、それ以外は全文自書が必要です。この自筆証書遺言を作成した場合には、最近から始まった法務局における自筆証書遺言の保管制度を利用することで、紛失などを避けることができます。
公正証書遺言は、遺言書が公証人の面前で遺言の内容を口授しそれに基づいて公証人が文章にまとめるもので、実務上は、事前に必要書類を準備して公証人役場と打ち合わせが必要になります。
また生前贈与と遺言で共通ですが、少なくとも法定相続分の半分の価値のある遺産を相続人に相続させなければ、相続人間で遺留分侵害額請求が発生し紛争となってしまう可能性もあります。
このように遺言は形式、内容とも法的に注意しなければならない点があるため、気になることがあれば弁護士に相談することをお勧めします。なお、4月15日は遺言の日とされていて、弁護士会等による相談会等が行われたりしますので、関心のある方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
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