よくわかる不動産相続 Q&A File.24
週刊かふう2018年3月23日号に掲載された内容です。
相続登記の必要性
相続登記とは、被相続人(=相続される人)が亡くなり相続が発生したときに被相続人が所有していた建物や土地などの、不動産の名義変更手続きのことです。手続きにかかる費用負担を考えると後回しにしがちですが、相続登記を放置すると、手続きが煩雑化するデメリットがあります。今回の相談者の例を見て、相続登記の必要性を押さえていきましょう。
Q.私の父が亡くなって十数年がたちますが、実家の登記名義はまだ変更していません。
私の兄弟は5人いますが、長女も父の他界後に亡くなりました。長女には夫がいますが、子どもはいません。また、他の兄弟もみな高齢で先行きに不安を感じています。聞くところによると相続登記は義務ではないとのことですが、あえて行う必要はあるのでしょうか?
A.結論から申し上げますと、相続登記は可能な限り早めにすることを勧めています。
確かに相続登記は相続税の申告や相続放棄の様に、いつまでにしなければならないという期限というものが設けられていません。登記名義を変更しようとすると通常、登録免許税という税金と司法書士に依頼する場合はその報酬を支払わなければならず、その費用負担を考えると抵抗感を覚える方がいるのも理解できます。しかし、相続登記を放置することによるデメリットが存在することも事実です。それでは、相談者のケースをみてみましょう。
相続人はA~Dの兄弟と亡くなった長女Yの夫Gの5人です。(図1)長女Yは父の他界後に亡くなっているので、夫GがYに代わってXの遺産分割協議に参加することになります。すなわち、この5人で遺産分割協議を成立させればいいのです。しかし、放置すると次々と別の相続が発生してしまいます。仮にGが亡くなるとどうなるでしょう。Gが亡くなるとGの相続人が代わってXの遺産分割協議に参加することになります。Gの相続人はGの兄弟たち3人です。これだけでも相続人が5人から8人に増えたことになります。しかも人数が単純に増えただけではなく、X家だけの話だったものが、G家の人間も登場することで事態は複雑化します。X家には仏壇があり、両親と暮らしていた長男Aがこの実家を継ぐつもりでいて、父Xも生前からことあるごとに実家は長男に譲ると公言し、他の相続人も納得していたとしましょう。しかしG家にとっては、そんなことは関係ありません。もしG家の人間が法定相続分を要求してきたら、特段の事情がない限りそれに従わざるを得ないでしょう。(通常は代償金で精算します)
また、相続人が高齢であるということなので、認知症等により判断能力が不十分な方がいる場合は、成年後見制度を利用することになります。成年後見人が選ばれると、遺産分割協議にはその成年後見人が本人に代わって参加することになります。ここで気を付けたいことは、成年後見人は本人の権利を守るために裁判所から選ばれた人なので、原則として法定相続分を確保した遺産分割協議を成立させなければいけません。まったく取り分を無くすことや不当に少ない取り分で遺産分割協議を成立させることは許されていません。基本的に本人が亡くなるまで成年後見人としての仕事は続くので、遺産分割協議が成立したからといって、成年後見人を辞めることもできません。万が一、成年後見制度を利用せず、認知症の相続人が遺産分割協議書に署名捺印したとしても、意思能力がないと判断されると遺産分割協議は無効とされるので、慎重にすすめるようにしましょう。
以上から分かるように、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であり、その合意をするには意思能力が備わってはいなければいけないということです。相続登記は、時間がたてばたつほど手続きが煩雑化していきます。やはり早めに手続きを済ませましょう。