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沖縄ミステリーツアー となりのマジムン 第22話 「「ヒージャーは化けるよ 家畜もマジムンになるのか?」

沖縄ミステリーツアー となりのマジムン 第22話 「「ヒージャーは化けるよ 家畜もマジムンになるのか?」

週刊かふう2020年10月16日号に掲載された内容です。

沖縄ミステリーツアー となりのマジムン 第22話 「「ヒージャーは化けるよ 家畜もマジムンになるのか?」

イラスト︰ニシムラトモコ

身近な家畜ほど化けて出る?

ヒージャー汁という沖縄料理がある。とにかくこってりした油がすごい。そして味にも非常に癖があり、好き嫌いがスパッと分かれるのが、このヒージャー汁の特徴であろう。ヒージャー汁=ヤギ汁のことであるが、今でも大衆食堂などで出される、いわばコアな沖縄料理の代名詞のようなものである。
昔は一家に一匹、必ずヒージャーが飼われていて、祝い事の席ではまるまる一匹のヒージャーを潰す(解体する)という表現が良く使われていた。現代では衛生法上、自宅での解体は難しいのだろうが、今回はそんな身近なヒージャーの化物についての話である。

ガングルユマタに現れる

宮古島の平良市にガングルユマタという交差点がある。ほぼ住宅地の中にある何の変哲もない交差点であるが、ここにはカタアシピンザという一本足(一本の足が欠損した三本足という説もある)のマジムンが出るのだ(ピンザはヒージャーの宮古方言)。
これは古の昔話の世界ではない。現在でも見た人がいるとネット掲示板に書かれるほど、都市伝説化したポピュラーな怪異なのである。これは著者の体験談であるが、ちょうど十年ほど前に宮古島を訪れた際、夜の七時くらいにガングルユマタを取材しようと思い、ホテルを出たところでタクシーを拾って「平良のガングルユマタまで行ってもらえますか?」と聞いた。するとタクシーの運転手は露骨に変な顔をした。「あんたよ、島の人間は夜中にあんな場所にはいかないよ」とその場で説教されてしまった。運転手は夜中にあんな場所に行くと障りがある(祟られる)と言い、なかなか発進してくれなかった。
前にも書いたことがあるが、こういった家畜系のマジムンは、人間の股の間をくぐることによって、マブイ(魂)やシー(精気)を吸い取るのが常だが、このカタアシピンザは少し違うようだ。もちろんカタアシピンザに股の間をくぐられたという逸話もあるのだが、ヒージャーは人間の股の間をくぐるには、少しばかりサイズが大きいようである。ではどうするかというと、人間たちの頭上を軽々と飛ぶのである。カタアシピンザに頭上を飛ばれた人たちはマブイを取られ、その後気分が悪くなったり、事故に遭ったりしてしまうという。

シルピージャーの伝説

沖縄本島にも奄美にも、こういったヒージャーのマジムン伝説は存在する。古宇利島にはシルピージャー(白いヤギ)というマジムンが存在し、2013年に閉校してしまった古宇利小学校の南側のパナガマという森に出たと、『古宇利誌』には書かれている。
同書によると、タルーとマチューという若者が、鮫つり用のサバナーと呼ばれる太い縄でこのシルピージャーを捕まえたのだが、厳重に縛っておいたにも関わらず、次の朝見てみると、使い古された一本のしゃもじに変わっていたという。これは物が何かに化ける「つくも神譚」と呼ばれる類の話だが、沖縄では似たような話で、使い古されたガン(死者を家から風葬墓まで運ぶ神輿のような道具)が牛マジムンやヒージャーマジムンに変わるという話がある。
これについては以前、仲島の牛マジムンについて書いた際に触れたが、この宮古島のカタアシピンザも、この類の話であった可能性がある。つまりこのカタアシピンザの出る交差点は、ガングルユマタといい、直訳するとガンのある四辻、という意味である。ということは、ガンヤーと呼ばれるガンを置いておく建物があったはずだ。ガンは何度も再利用するので、その都度穢れが生じて、穢れたものは放っておくと化けて出るのである。ところが今はもはやガンヤーの影も形もない。しかしそこから出てきたと思われるカタアシピンザだけが、自由に宙を飛び跳ねている。いつの日か、カタアシピンザを捕まえられる現代のタルーとマチューは現れるのだろうか?

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