沖縄島建築 インサイドストーリー Episode1 沖縄住宅の顔 鉄門扉
週刊かふう2020年4月10日号に掲載された内容です。
Episode1 沖縄住宅の顔 鉄門扉
沖縄の建築を撮影して25年。
昨年末に『沖縄島建築』を刊行しました。
建物を知ることから始めて、沖縄の歴史や文化、暮らしに思いをはせることを目指しました。
今回から始まる、この連載「沖縄島建築 インサイドストーリー」では、『沖縄島建築』のコラムでも取り上げた沖縄の建築にまつわる意匠や特徴について、もう一歩踏み込んで考えてみようと思います。
毎回、違ったテーマを取り上げ、私の撮影した写真とゲストによる考察やエッセーで、島建築から見える沖縄について一緒に考えてみましょう。
第1回は鉄門扉です。
今では少なくなりつつありますが、住宅の顔として人びとを迎え入れる鉄門扉。沖縄の鉄門扉にはどんな特徴があるのでしょうか。
フェイスブックで鉄門扉グループを主催している稲嶺尚子さんと鉄門扉を訪ねて街へ出ました。 (岡本)
「沖縄の鉄門扉」とは
皆さんは「沖縄の鉄門扉(てつもんぴ)」と聞いてどのようなものを想像しますか?
古い家の玄関先にあって、金属をくるくると曲げた模様のある鉄製の門と聞けば、「ああそういえば……」と思い浮かべることができると思いますが、いかがでしょう。
そもそも門扉とは、住宅敷地と道路など外界との境界線やその近くに設置される「住宅の顔」ともいえるエクステリアです。機能的には、防犯上の安全性向上や住人家族のプライバシーを守るという役割があり、時にはペットの出入りや子どもの飛び出しを防ぐといったメリットもあるでしょう。
現在は、カタログから選ぶ既製品や別注で制作されるアルミ製、金属を溶かし型に流し込み作られる鋳物の鉄門扉が主流ですが、ここに書く鉄門扉とは、沖縄県内の鉄工所で作られた手作りの鉄門扉に限りたいと思います。
昔ながらの古い瓦屋根住宅には、敷地を囲むコンクリートブロック塀があり、正面玄関前には門柱が設けられ、時にはシーサーが載り、その間に鉄門扉がある……その佇まいは、まさに沖縄と呼ぶにふさわしい情景です。
しかし注意深く見てみると、コンクリートブロック建築の出入り口や車庫や倉庫、勝手口や階段通路などにも鉄門扉は使われているのが分かります。つまり、古い家屋が残る田舎に限らず、繁華街のメインストリートやその裏通りにも、街の至る場所に鉄門扉は存在しているのです。
個性溢れる鉄門扉
ある時、私はいつも見慣れていたはずの鉄門扉のデザインの可愛らしさに目が留まり、街中にある鉄門扉のデザインに関心を持つようになりました。そこでSNSのフェイスブックグループを開設し、沖縄県内各地の鉄門扉写真を記録として残すことにしました。
グループの方々から寄せられるさまざまな鉄門扉は、地域の鉄工所職人の個性が表れていて地域性というものがあり、上部に槍がついていたり下部に細かい柵がついていたりと、門扉として備えるべき基本の構造があることも分かりました。
珍しいものでは、記念日や番地、家主の名前や頭文字のローマ字や漢字を、鉄筋を曲げて作るなど、表札替わりともいえるような意匠のものもありました。
このように、鉄門扉は同じものは二つとしてない、一点ものの作品のようなのです。そこで、沖縄に現存する個性的な鉄門扉を私なりに分類してみました。それが左の表です。
その中から今回ご紹介するのは、乗り越え防犯機能の上部槍が、その機能以上に魅力的な職人技とセンスの光る「槍」鉄門扉と、猫やペットが出入りするのを制限するためにあしらわれた「猫返し」付きの鉄門扉、下部に家主が手を加えた結果、少しユーモラスな形状になった鉄門扉たちです。
今回、県内各地から厳選した鉄門扉を岡本さんと一緒に改めて「訪門」して、素晴らしい写真に残すことができました。掲載を快くご承諾くださいました家主さんとご協力いただいた多くの方々に感謝します。
古くてもなお撤去を免れ現存する魅力的な鉄門扉の世界を、少しでも皆さんに気付いていただければ幸いです。 (稲嶺)