1LDKから3LDKまでフレキシブルに変化するリノベーション
心地いい、リノベ計画10
COMFORTABLE RENOVATION
屋島ブランドのアパート『Growing House』
可動式クローゼットが仕切り壁の役割を果たして、広く生まれ変わった居室を自在に間取り変更するアイデア。
家族の成長とともに「育つ」住まいの提案。
画一的な間取りを可変性豊かな住まいへ
一般的な賃貸住宅のイメージ像を覆す、大胆なリノベーションに驚きの連続。株式会社屋島組が1棟まるごと入手した築36年の賃貸マンションを、洗練されたデザイナーズスタイルへと仕上げたのが「ニューオータマンション」です。屋島ブランドのアパート「グローイング ハウス(成長する住まい)」の記念すべき第1号で、ブランド名にはリノベーション後の空間特性と入居家族の末永い幸せへの思いがダブルミーニングとなって込められています。
リノベーション前はダイニングキッチンとユーティリティー、三つの個室で形成された画一的な間取り。それをコンクリートの壁と天井をむき出しにして室内容積を広げ、LDKと約15帖の居室スペースが一体となった広い1ルームを可動式クローゼットや引き戸で仕切ることにより、3LDKまでフレキシブルに変化させることができる独創的な住まいに生まれ変わらせました。
家族構成は長い時間とともに変化していくもの。夫婦2人から子どもたちの成長を見守る家族へ、子が巣立った後は再び2人の暮らしへ。
「住まう人数やライフスタイルに合わせて間取りを転換できる、成長するアパートとして長く住むことができるよう工夫を凝らしています」
このタイプは『グローイング ハウス』の基本となるコンセプトルーム。
「8枚の引き戸をすべて取り外せば広々とした空間が生まれ、友人を招いてのパーティーなどにも最適です」と説明する同社取締役社長の屋冨祖秀清さん。
S字の壁が描き出す個性を尊重する住まい
基本タイプをベースに、LDKとユーティリティー、居室スペースの間にS字を描く曲線の壁を創造したタイプは、斬新なデザインを求める個性派に好まれそう。
「仕切り壁をS字型にすることで、ダイニングテーブルを置く場所にゆとりあるスペースを配分でき、居室側では空間の膨らみが変化することによって一層の広さを感じることができます」
このタイプには魅力がもう一つ。「ニューオータマンション」の躯体意匠だからこそ実現できたアイデアではありますが、リビングの外側に専有部分をセットバックしてバルコニーを創出しています。日当たりのよい第2のリビングとして、ガーデニングを楽しむ庭として、住まう人のライフスタイルで楽しみが多彩に広がりそうです。
玄関から続く個室は土間仕様のスペース
玄関ドアを開くと、右手に玄関フロアから段差なく続く明るい空間が現れます。こちらのフロアは玄関土間と同じ素材が使われ、靴を履いたままでも入室OKな仕上がり。大きな窓に沿って造作されたカウンターデスクは、在宅で仕事をしたり、趣味に使ったり、家族のスタディースペースに最適です。引き戸で個室化できるので、アイデア次第でさまざまな使い道が広がります。
LDKと居室スペースの間は、楕円を描くようにカーブした仕切りを設置。先に紹介したタイプと同様、ダイニングテーブルのためスペースを広めに取る工夫がモダンな室内デザインとなっています。場所ごとにフロア材を変えると心理的にもスペースの境目を感じさせ、ドアを設けないインテリアに有効なテクニックです。
Data
所在地: 那覇市
設 計 : 株式会社屋島組(担当/屋冨祖秀清)
延床面積 : 3タイプ共通/56.7㎡(約17.15坪)
構 造 : 鉄筋コンクリート造
独創性に富んだフレキシブルなアイデアが
愛着を育む住まいへとグレードアップ
「個性的なデザインのリノベーションプランを提案しても、画一的な間取りに慣れた賃貸物件のオーナーさんは、なかなか首を縦に振ってくれなくて」
そう話すのは、大胆なリノベーションが好評で入居者が次々と決まった「ニューオータマンション」のオーナー企業、株式会社屋島組の屋冨祖秀清さん。同社は空間を柔軟にアレンジできる屋島ブランドのアパートを『グローイング ハウス』と名づけて、プランニングから施工まで一手に担うスタイルでプロジェクトに取り組んでいます。
「自社でマンション1棟を所有したのを機に、構想でとどまっていたデザイン性と機能性に富んだアイデアをたっぷりと盛り込みました」
「ニューオータマンション」ではいくつかの個室に区切られていた間取りを、壁材や天井を撤去してスケルトン状態にしてから改修に着手しました。「玄関から奥の開口部まで視界が伸びると、空間がさらに広く感じられる」と説明する屋冨祖さんは、LDKと居室スペースを広い1ルームとする間取りを基本とし、可動式クローゼットや全開できる仕切りなどを組み合わせて、入居者それぞれの好みで3LDKまで変化させられる工夫を施しています。
「家族の変化や成長に寄り添って、住まいもフレキシブルに変化できるようにしました」
仕切りの役目も果たすクローゼットは底に内蔵したキャスターで楽々と移動でき、設置したい場所で固定できる仕掛け付き。居室スペースの壁上部には収納棚と長押(なげし)を設けて、見た目以上の収納力を発揮します。玄関の並びに設えたコートハンガーや室内干し用のハンガーパイプ、キッチン背面の棚など、同社のスタッフ自らが造作した家具類は物件をデザイナーズ風に仕上げると同時に、コストダウンにも貢献しているそうです。
「家賃はリノベーション前よりも高め設定にしましたが、デザイン性にあふれた高めの部屋から入居者が決まりました。実験的に挑戦した独創的なプロジェクトですが、万人受けではない物件を求める層も確実にいて、方向性は間違っていないという確信と自信につながりました。今後も建築を通して社会に貢献し、10年後も魅力ある物件をご提供していきたいですね」
屋島ブランドの『グローイング ハウス』は、これからのアパートの新しいカタチとして多くの発見を教えてくれました。