360度に開く木造 古民家の知恵に新たな技法を用いた「新民家」
伝統建築を生かし
新工法で循環型の木造建築へ
沖縄の気候や風土に合わせて、いにしえから受け継がれてきた古民家。これまで先人たちが築いてきた知恵や技術に、新たな技法を用いて生み出されたのが株式会社ISSHO建築設計事務所が手掛ける「新民家」です。
同社の一級建築士・漢那潤さんが手掛けた「新民家」の特徴は、360度、開口部を実現した間取り。風通しの良さはもちろん、従来の木造にはない開放感を感じられる造りで、高温多湿な沖縄でも一年を通して過ごしやすい住まいを実現しつつ、沖縄の集落に溶け込むデザインに仕上げました。
本部町にある宿泊施設「SHINMINKA Villa」は、植林から建て替えまでを含めた木造の持続可能なライフサイクルを提案しており、環境に取り組む秀逸な建築物として日本建築家協会JIA環境建築賞最優秀賞2019(住宅部門)を受賞しました。さらに、外周の柱は交換可能で解体も容易にできるドリフトピン工法を用いており、木造建築に新たな息吹をもたらしています。
新技法で古民家が
抱える課題を解決
漢那さんが沖縄の古民家に注目したのは、8年ほど前。自邸を建てるために県内で土地探しを始めたころ、「初めはコンクリート造を検討していましたが、ローコストで沖縄の気候に合った住まいをと調べるうちに、目に留まったのが沖縄の木造の古民家。古民家といっても時代によって少しずつ変化しており、歴史の深さに気付かされました」と振り返ります。
紀元前から近代までの古民家の構造を考察した中で、「現在の形に定着した古民家の日差しを遮る庇や風を流す寄棟屋根は合理的な造り」としつつも、課題も見えてきました。一つ目は「庇を深くすると、台風時に屋根への荷重が大きくなる」、二つ目は「強度を高めるために外壁を設けると開口部が制限される」ことでした。
これまで、古民家では外壁面に構造壁を配置しており、風を通す開口部が制限されていたといいます。そこで、漢那さんは開口部を広く取れるように筋交いを従来の外壁から外周の雨はじ柱に配置。この工法を実現するために、金具メーカーや構造家と共に、柱と筋交いの部分をつなぎ留めるオリジナル金具「垂直ブレースコネクタ」を開発しました。それにより、外壁面を壁にする必要がなくなり、強度を保ちつつ、四方に開口部を設けることが可能になりました。
アレンジも自由自在
業者向けに販売スタート
「新民家」は、注文住宅や建売住宅はもちろん、宿泊施設としての利用もできるほか、さらにこのほど建設業者向けに「新民家」のフレーム販売も開始しました。
「広さも選択でき、2階建てのプランも可能。間仕切りがほしい場合やルーバーを入れるなどのアレンジもできます」とオリジナルの空間づくりもできます。
沖縄らしさを残しつつ、自由度の高い間取りに住まいを建て替える循環型の木造建築を提案する「新民家」。同社が運営する宿泊施設「SHINMINKA Villa」は、本部町具志堅と今帰仁村玉城にあり、宿泊が可能ですので、居心地、使い心地を体感してみてはいかがでしょうか。(宿泊は有料、同社HPから予約可)