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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

笑い声と視線が青空へ抜ける ホテルライクなコートハウス

笑い声と視線が青空へ抜ける ホテルライクなコートハウス

DATA
設計: 有限会社 門一級建築士事務所
敷地面積: 204.40㎡(約61.83坪)
建築面積: 115.61㎡(約34.97坪)
延床面積: 123.76㎡(約37.43坪)
用途地域: 無指定
構 造: 壁式鉄筋コンクリート造
完成時期: 2024年3月
建  築: 株式会社 金城組
     (担当/比嘉正彦)
電  気: 日章電気工事 株式会社
     (担当/神里光正)
水  道: 株式会社 HYS(ヒス)企画
     (担当/前城裕二)
キッチン: 株式会社 MOV
     (担当/前花涼子)

コンクリート打ち放しのクールな外観をまとったIさん宅は、親子3人が暮らす平屋のコートハウスです。 
生活感を表に出さず、スッキリとして非日常感に満ちた家の中はまるでプライベートホテルのよう。
「コ」の字形の躯体に囲まれたコート(中庭)は、子どもと一緒に外遊びが楽しめる他、空の眺めを日常へ届ける癒やしの空間になっています。

週刊かふう2024年8月23日号に掲載された内容です。

笑い声と視線が青空へ抜ける ホテルライクなコートハウス

視線と意識の流れを計算した造形デザイン

 外に閉じて内へ開く。開放感とプライバシーを両立できるコートハウスの特徴的な設計手法ですが、今回のIさん宅の場合、感覚的には外に対しても開かれた印象を受けます。
「ここからの眺めが好き。奥に進むにつれて、両サイドに並んだ居室の庇が短くなっているので、青空に向かって視界も意識も広がっていく感じがします」。

 ご夫妻が案内してくれたのは、コートを「コ」の字形に囲んだ建物の短辺部分。壁一面がFIX窓になっており、手前にはキッチンと一体的に造作したダイニングテーブルが置かれています。窓の外に目をやると、右手にはリビングと和室、左手には主寝室と趣味室がそれぞれ連続し、室内のどこにいてもコートを通して屋外の雰囲気が伝わる間取りになっていることが分かります。またLDKと和室は、間仕切りのないワンルーム的な空間構成になっており、吹き抜けになった天井が一段と開放感を高めています。
「平屋でちょっとした庭があって、ホテルライクな家にしたいとは伝えたけれど、まさかここまでカッコイイ家ができるなんて」。

 新築記念に飾っている100分の1スケールの住宅模型は、ほぼ設計事務所から提示された最初のプランのまま。変更点はキッチン・ダイニングの天井高を抑えた程度で、コの字形のレイアウトからキッチン横に集約した水回りや駐車場まで、模型と同じ形が再現されています。

 新居が完成したのは今年3月。現在の敷地にはもともとご主人の実家が建っていました。子どもが成長して以前の賃貸生活に手狭さを感じ始めた頃、ご両親は別の住まいへ転居していたため、親族会議を経て建て替え・新築を計画。依頼した設計事務所とは友人の紹介で出会い、作風にも担当者の人柄にも心を射抜かれました。

笑い声と視線が青空へ抜ける ホテルライクなコートハウス

コートで遊ぶ子どもたちを室内から見守れる安心感

 瞬時に決まった平面・立面プランとは対照的に、デザイン選びには徹底的に時間をかけました。テーマはもちろん、ホテルライク。まずは核になる存在としてキッチン本体の意匠を決定し、それに合わせて周囲の床・壁・建具・収納などをコーディネートしていきました。
「同じように見える製品でも、実際に手に取って比べるとニュアンスが微妙に異なるもの。サンプルだけでは空間イメージがつかめないので、ポイントごとに3Dソフトでシミュレーションしてもらいながら、2人で本当に納得するものだけをセレクトしていきました」と奥さま。建築士からアドバイスを受ける機会も多く、「経験値が豊富だから、実例を踏まえての話に説得力がある。中でも”色数は極力抑えたほうがいい”とはよく言われましたが、まったくその通りでしたね」とご主人は振り返ります。

 タイルや壁紙といった表出する材料に限らず、機能性・実用性の追求から生まれた空間デザインもまた居心地アップに一役買っています。
 例えば気積の大きなリビングには、シーリングライトはおろかダウンライトもなく、照明は間接光のみ。光源が梁に隠れているため視界に引っ掛かりがありません。その流れでキッチンのレンジフードも「せっかくのスッキリ感が減じてしまうから」と省略し、隣接するパントリーの天井に換気扇を設置しました。「排熱・排煙ともに問題なし。建築士さんの自邸でのお墨付きがあったので安心でした」。

 新居の快適さは友人知人にも好評です。家族連れでやって来て、コートで自由に遊び回る子どもたちを眺めながら、ダイニングやリビングで談笑にふけるといった過ごし方が早くも定着。コートは使い勝手も抜群で、「猛暑の今年は毎週プールが大活躍です」とのこと。大人も子どもも心身を解放できる町中のオアシスです。

写真ギャラリー

笑い声と視線が青空へ抜ける ホテルライクなコートハウス

人の行動原理・心理を意識したストレスフリーの動線計画

スイッチの高さ、照明のメンテナンス方法など、具体的な生活のディテールを考える
最も採光・通風に優れた場所にコートを置き、FIX窓を多用して開放感を高める

有限会社門一級建築士事務所

 私はマッサージを受けるのが大好きです。ベッドに横になって施術され、グデッと脱力していくあの感覚はたまりません。一体何の話かと思われるかもしれませんが、住宅の設計を行う上で、私たちが目指している方向性は実はマッサージとかなり近いものがあります。住み手が毎日の生活の中で覚える違和感を取り除き、無意識の自然な振る舞いを妨げないように、その場にいるだけで心身ともにグデッとできる空間をつくるにはどうすればいいか。間取りを組み立てたり、光や風の取り入れ方を考えたりするのは、究極的にはそのためです。

 細かなところでは、今回のIさん宅を例に挙げると、照明などのスイッチはすべて肩の可動域を計算し、通常より低めの高さ1メートルで統一。照明器具は、光源の直接的な刺激を避けるために主に間接照明で構成し、掃除をする際、手を伸ばすとちょうどモップが届くように設置場所までの奥行きを整えました。
 またコンセントは床内に収納し、せっかくの視界の広がりを配線が損ねないように配慮するなど(下記「家づくりのヒント」参照)、人に備わる普遍的な感覚に基づき空間を徹底的に操作しています。

 平面プランについては、四方に家々が建ち並んだ周辺環境や、「平屋でちょっとした庭もほしい」、「今までの生活の中であまり窓を開けて過ごすことはない」といったIさんの要望・生活習慣を踏まえ、計画当初からコートハウスを提案しました。
 敷地は北側・西側が接道する二面道路の台形地で、広さは60坪強。まずは駐車スペースと建物のボリュームを割り振った後、最も光を集めやすい位置にコートを置き、家の中でIさんはどのように動くのか、常にストレスなく振る舞うにはどのような動線にすべきかを考えながら現在の間取りを作成しました。今回に限らず多くの場合、敷地条件と玄関の位置が定まれば、頭の中で大まかなレイアウトはできあがります。

 コートを囲む居室にはコートに面して大きく窓を取り、抜け感のあるFIX窓を多用。吹き抜けにはコーナーガラスやハイサイドライトを設置して、明るさを補い非日常感を演出しました。
 最終的にIさんが望むホテルライクな空間を実現でき、喜んでいただけたことは設計者冥利に尽きますが、一方で私たちとしては、人の行動原理・心理に忠実に従っただけで、特別な設計をした意識はないのもまた事実です。

設計・施工会社

門(じょう)一級建築士事務所

TEL:098-888-2401http://www.jo1q.com/

TEL:098-888-2401http://www.jo1q.com/

南風原町字津嘉山750-1

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