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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

船の舳先(へさき)のような 鋭角なフォルムのタイニーハウス

船の舳先(へさき)のような 鋭角なフォルムのタイニーハウス

DATA
設  計: 松島デザイン事務所
     (担当/松島良貴)
敷地面積: 104.93㎡(31.74坪)
建築面積: 35.20㎡(10.64坪)
延床面積: 33.39㎡(10.11坪)
用途地域: 指定なし
構  造: 鉄筋コンクリート造
完成時期: 2024年10月
施  工: 松島デザイン事務所
電  気: 有限会社 開成電設
水  道: 泉水設備 株式会社
型  枠: 松島デザイン事務所

うるま市の交通量の多い道路沿いで目を引くコンクリートの鋭角的なフォルム。
装飾を一切そぎ落としたミニマムな家は、同じ敷地内に建つ家と響き合う、モダンアートのような佇まいが魅力です。

週刊かふう2024年10月25日号に掲載された内容です。

船の舳先(へさき)のような 鋭角なフォルムのタイニーハウス

思い出深い場所で二つの家づくり

 光沢のある美しいコンクリート打ち放しの外観に、三角形のシャープな造形美。わずか10坪強の個性的な家に暮らすのは、Kさんと飼い猫のうーたん。施主は同じ敷地内に家を持つ姪のYさんです。そこにはひとつの素敵な物語がありました。

 姪のYさん一家の住宅は2023年10月に完成し、週刊かふう2024年2月16日号でご紹介したばかり。ウェブサイトでも読むことができますので、ぜひご覧ください。Yさんが家づくりを始めたのは今から10年以上前にさかのぼります。「大好きな海を眺められる見晴らしのいいところで暮らしたい」という想いで、生まれ育った地元周辺の土地を探し始めましたが、希望に沿うものはなかなか見つかりません。気が付けば10年近くが経過していました。
「そしたら叔父(Kさん)が見かねて、『この土地を使ったらいいさ~』と譲ってくれたんです」とYさん。Kさんも「ここには両親が亡くなった後も私が住み続けていましたが、築年数が50年以上になり、老朽化が心配になっていましたからちょうどよかった」と話します。驚いたことに、以前の家にはYさんも母親と一緒に中学1年生まで住んでいたのだそう。「思い出深い場所で家づくりができたことは本当にうれしいですね」。YさんがKさんのライフスタイルに合わせてオーダーしたミニマムな家には、Yさん一家の大きな感謝が込められています。


船の舳先(へさき)のような 鋭角なフォルムのタイニーハウス

内と外が緩やかにつながる風が通る家

 設計はYさんの家と同じ設計事務所に依頼。この事務所との出会いは、この事務所で大工の棟梁をしているKさんの弟がきっかけでした。「おかげでとてもいい建築士さんと出会えました。自分の力だけではなかなか見つけられなかったと思います」と話します。
 YさんがKさんのために建築士に出した要望は「ペットと暮らす1人暮らしのコンパクトな家」「エアコンを使わない風が通る家」というシンプルなもの。最初はプレハブ住宅も検討していましたが、耐久性などを考慮して鉄筋コンクリート造にし、ミニマムでシンプルなコンクリート打ち放し、オール土間の造りにすることでコストを抑えました。

 完成した家は、浴室コートと呼ばれるシャワーブースの屋根や、中庭のコートの屋根が外とつながり、家中を心地よく風が通る間取りになっています。窓や玄関ドアを開け放てば、さらに風が入り、エアコンが苦手なKさんが扇風機だけで快適に過ごせます。
 Yさんは、「敷地の形がかなりいびつで広さも限られている中、見事に計算されている」と高評価。Yさんのご主人も「理想の斜め上を行く素敵な仕上がり。自分用の離れに欲しいぐらい」と話します。Kさんは「姪たちが家をプレゼントしてくれて感激です。まさかこんなにかっこいい家だとは」と満面の笑みを浮かべます。

船の舳先(へさき)のような 鋭角なフォルムのタイニーハウス

タイニーハウスでかなうミニマムで豊かな暮らし

「イスにペンキを塗り直してコートに置くのが楽しみ。うーたんと一緒にのんびり過ごしたいですね」とこれからの日々を想像して目を細めるKさん。さし草を栽培し、農家向けの交配用蜜蜂を育てて販売していますが、新居は畑が近くなり「移動が楽になった」と喜びます。建築を担当した棟梁(弟)と建築談義を交わしながら、2人で家飲みも楽しみたいそう。

 Yさんは総勢50人以上にもなるという仲の良い親族の姿を思い浮かべながら、「叔父の家が完成したので、これからはみんなで集まるのが楽しみ。わが家の2階テラスと叔父の家のコート、二つの家で一緒にバーベキューを楽しんだりしたいですね」と瞳を輝かせます。
 Kさんは一人暮らしでありながら、Yさん一家とはスープの冷めない距離で暮らす家族のよう。Yさん夫婦はもちろん、子どもたちもちょくちょく叔父さんの家に遊びに行くことになりそうです。

 Kさんの暮らしぶりは、必要最小限のものだけを所有し、物質的な豊かさにとらわれないシンプルで豊かな暮らしを実践する「ミニマリスト」そのもの。装飾を一切そぎ落としたミニマムなコンクリート打ち放しの住宅がよくお似合いでした。

写真ギャラリー

船の舳先(へさき)のような 鋭角なフォルムのタイニーハウス

装飾を極力そぎ落とし、自然の豊かさを取り込むシンプルな家を提案

建築家:松島良貴さん

 私たちが住宅の設計や建築の際に大切にしているのは、装飾を極力なくすということ。「付け足す設計ではなくそぎ落とす設計」が基本的な考え方で、予算の大小にかかわらず、なるべくシンプルに抑制しながらの家づくりを心がけています。建築資材高騰のあおりを受けにくいだけでなく、時代が求めるミニマルで無駄のない暮らし方にもフィットしていると思います。

 今回のKさんの二等辺三角形の家は、姪のYさんの家が建った後に残った狭小不整形敷地を活用することになり、「そぎ落とす設計」という意味ではその最たる例になっています。
 二つの家はシャープな外観は同じですが、内装はかなり異なります。畑仕事や蜜蜂の飼育をしながらペットと暮らす、Kさんの少しワイルドなライフスタイルに合わせて、キッチンや水回りを必要最小限の装備にし、床は水洗いができる土間にしました。

 私たちが得意とする「コートハウス」は、内外共に直線的なデザインが基調で、装飾や凹凸のない外壁が特徴です。大きな窓がなくても中庭のような大きなコートを配置することで、十分な採光と通気を確保できる快適な暮らしが実現します。高価なタイルやクロスなど華美で人工的な装飾ではなく、自然を上手に活用できれば、その美しさや豊かさの恩恵は無限で長く続くはずです。
 1日の時間の移り変わりや季節によって、日々さまざまに変化する外空間の光や風だけでなく、気温や湿度でさえもすべて外部要因として室内に取り込みます。そのための黄金比は、部屋と外部コートの開口部を同じ幅、同じ高さ、同じ奥行きの1:1にすること。これにより家全体の美しさや存在感が際立ちます。

 家づくりでは施主さまやご家族とじっくり語り合い、会話のキャッチボールを楽しむことが大事。それがお客さまのご満足や自分のやりがいにもつながっています。

設計・施工会社

中城村字南上原817 南上原ハイツ(B棟)

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