独立した4つの箱が日常を縁取る 無垢な素肌のコートハウス
- DATA
- 設計・施工: 松島デザイン事務所
(担当/松島良貴) - 敷地面積: 295.38㎡(約89.35坪)
- 建築面積: 69.80㎡(約21.20坪)
- 延床面積: 59.07㎡(約17.30坪)
- 用途地域: 指定なし
- 構 造: 鉄筋コンクリート造
- 完成時期: 2023年3月
15年越しのマイホーム計画を実現し、コンクリート打ち放しの家で新生活を始めたTさん一家。
大きく4つに区切られた居室・スペースは、それぞれの場所での過ごし方に応じて設計されており、日常のあらゆる瞬間が特別なものに感じられます。
大好きな植栽やインテリア雑貨を並べて無垢な空間に彩りを添え、親子3人、笑顔の絶えない毎日を送っています。
週刊かふう2024年11月1日号に掲載された内容です。
肌触り・心触りのよいきめ細かなコンクリート
スキンシップは愛情を深める毎日の習慣です。
ペタ、ペタ、ペタ。
愛(いと)おしい。美しい。
壁と天井を取り巻くコンクリートの素肌はうっとりするような滑らかさがあって、いつまでも触れていたいほど。光が当たると品のある光沢を放ち、家中を彩る植栽や季節の飾り物に輝きを与え、日々の暮らしを一段と華やいだものにしてくれます。
「コンクリート打ち放しの家に住むのが憧れだったんです」と話す奥さま。建坪21坪の平屋の新居が完成したのは今年3月。仕事帰りの夕暮れ時、ほんのりとライトアップされた無垢な外観も麗しく、「マイホームを持てたことが本当にうれしくて。車から降りると無意識に外壁に手を当てて、存在感を確かめながら喜びに浸っています」。
家づくりの計画自体は15年以上前にスタートしました。敷地はご両親から厚意で譲り受け、幾度となく建築会社を巡って相談を進めてはみたものの、検討・中断・充電の繰り返し。そんなサイクルの途中で依頼した建築家と出会い、最後の一押しをしてもらいました。
「コンクリート打ち放しの実績が豊富で、私たちの要望やライフスタイルに真に寄り添ったプランを考案してくれました。スタッフの方や職人さんの人柄も良く、人に恵まれましたね」。
打ち合わせには常に夫婦で参加しました。ご主人はほぼ全権を委任し、「大好きな釣りの道具の手入れがしやすいように、外部の作業スペースさえあればいい」というスタンスだったのに対し、奥さまは花やグリーン、インテリア雑貨など、多趣味でやりたいことが豊富。おのずとプラン面でもデザイン面でも、奥さまの意向を色濃く反映する形になりました。
打ち放しの無垢な空間に植栽や小物が映える
Tさん宅はコートハウスです。外壁にぐるりと囲まれたコート(中庭)が家の内部にあり、プライバシーを確保しながら開放的な暮らしが楽しめます。平面形状もシンプルで、LDK・コート・個室・水回りの計4つのエリアが漢字の「田」の字状にレイアウト。このうち水回りは廊下を隔てた位置にあり、田の字の左上にやや突き出たような形態になっています。
新築後、奥さまのインテリア熱に拍車がかかったのは言うまでもありません。使い慣れたコートのシャビーなテーブルも、新たに買いそろえたリビングのソファやダイニングチェアも、打ち放しの無垢な空間によく映えます。彩りを添える季節の植栽は、園芸店から仕入れたり実家の庭から拝借したりと多種多様でありながら、容器を含めてセンス抜群。さらにはイベント感の演出にも精を出し、「初めて迎えるクリスマスには、特大のツリーをコートに置いて、イルミネーションにもチャレンジする予定です。ただその前には息子の誕生日があるので、盛大に飾り付けたいですね」。
一方で個室は、静かに自分の時間に浸る場所。ベッドサイドには壁一面に棚を造作し、本やお気に入りの小物を並べています。今後は水回りの活用拡大も計画しており、「バスコートの雰囲気がとてもいい。椅子などを置いてゆっくり過ごせないものか」と思案しています。
「本心を言えば、予算にもっと余裕があれば、もっと大きな家を建てたかった。でも実際に暮らし始めてみて、等身大のこの家でよかったと心から思える。しみじみと幸せを感じています」。
駐車場横の植栽スペースには、最近になってようやく種をまき、現在は首を長くして萌芽(ほうが)の待機中。「家に近づいたり遠目から眺めたりしてシミュレーションを繰り返していたら、選定に時間がかかってしまって」。花咲き緑たなびく外観は果たしてどんな姿になるのか、楽しみは膨らむばかりです。
写真ギャラリー
気分を強制リセットする空間装置として絵画を飾る額縁のような廊下を設計する
LDK・個室・水回りの間にひとつながりの廊下を挟み、周囲との連続性を断ち切る
建築家:松島良貴さん
アクティブでパワフルな奥さまと、優しく寄り添うご主人と長男。奥さまの興味は幅広く、植栽、インテリア、小物・雑貨、読書等々、それぞれにご自身の世界観を持っており、どこで何をしていても瞬間瞬間が輝く空間をつくるにはどうすればいいかを考えました。
「物を引き立てる」という手法は、例えば料理と器の関係のように、さまざまな場面で見て取れます。その中で今回最も着想のヒントになったのは、絵画と額縁でした。中の絵を入れ替えると、額縁は今まで同様に存在感を消しながらも周囲からの連続性を断ち切り、新しく入れた絵画を引き立てます。つまりはTさんが植栽をめでる時、一人で趣味に浸る時、家族団らんの時、それぞれの瞬間が引き立つ額縁のような空間をつくればいい。方向性が定まりました。
プラン自体は漢字の「田」の字をベースにしたシンプルなものです。同サイズの正方形の箱を4つ用意し、使い勝手や採光性、風通しなどを考えながら、LDK・コート・個室・水回りをレイアウト。そしてコート以外の3つの箱の間には、単調でひとつながりになった外回廊のような廊下を挟むことで、各エリアの独立性を高めて額縁効果の発揮を狙いました。場所を移るたびにそれまでの気分や時間は強制的にリセットされ、次の場所ではまたゼロから立ち上がるため、一つ一つの生活シーンが際立ちます。
予算面を考えれば、廊下を省いて凹凸をなくし、躯体全体を単純な四角形で仕上げたほうがコストは抑えられましたが、Tさん宅をTさん宅たらしめるには、廊下は必要な「余白」でした。
建築に臨む私たちの基本スタンスは従来と変わりありません。例えば施工面では、土木構造物と同等以上の強度・品質を持つ水分量の少ないコンクリート(スランプ8センチ)を打設。打ち放しのコンクリートの美しさ、品質の良さを求めるTさんの期待に応える仕上がりになっています。また自然界では極めてまれな自己相似の概念(部分と全体の構造が相似形を成す)は、理性を持つ人間の棲家(すみか)では無意識に安心感を高めると考え、今回は基準グリッドを4・4メートルに設定。すべての居室・スペースのサイズをこの基準値を元に算出し、均整の取れた空間を構成しています。
設計・施工会社
松島デザイン事務所
TEL:098-961-2182 | https://matsushimayoshitaka.com/