街並みに映えるコートハウスが暮らしの豊かさを創造
- DATA
- 設 計: 建築工房 空間舎
(担当/玉城越也、石川智子) - 敷地面積: 227.66㎡(約68.87坪)
- 建築面積: 114.00㎡(約 34.48坪)
- 延床面積: 152.50㎡(約46.13坪)
*外室含む - 用途地域: 南城市土地計画区域
(区域区分非設定) - 構 造: 壁式鉄筋コンクリート造
- 完成時期: 2016年4月
- 建 築: 株式会社 大宜見組
(宮里則幸、富川正晴) - 電 気: エム電設(嶺井進)
- 水 道: 金仲設備(仲里辰彦)
- キッチン: 有限会社 昭和厨房設備
花ブロックが囲むコートハウスの内外に伸びやかな開放感が連なる空間デザインを実現。
週刊かふう2024年11月8日号に掲載された内容です。
希望と条件の調整が満足のプランへ導く
幅広い道路で整然と区画された新興住宅地の一角に建ち、スタイリッシュな意匠が目を引くKさんの住まい。
「家の建物が完成してから8年がたちますが、土地を取得したのはその3年ほど前のことです」と当時を振り返るKさん。マイホームに抱く夢がたくさんあり、プランをじっくりと練り上げて決定するまで3年の月日をかけたといいます。
平屋に憧れていたKさん夫妻。また、ガーデニングがお好きな奥さまは「絶対、庭がほしいと思いました」と回想します。しかし敷地の2方向が道路に面し、人通りも頻繁なためプライバシーの確保が重要課題に。さまざまな希望を盛り込みたくて、プランはなかなか進みませんでした。
そんな紆余曲折を経て建築工房・空間舎の玉城越也さんから提案された、躯体を包み込むように花ブロックで囲み、その内側にコート(中庭)を設けるアイデアに落ち着いたといいます。敷地の広さと間取りの関係で、平屋から2階建てへと変更しました。
親戚一同が集う広いLDKを中心に
将来、仏壇を持つので、家庭行事のたびに親戚一同が集まることを想定して、広いリビングや和室が必要だと考えていたKさん夫妻。1階は住まいの中央に開放的なリビングを据え、4枚引きのサッシで出入りできる庭を2方向に造ることができました。植栽をはわせた花ブロックが適度な目隠しとなり、日中はカーテンを開け放しても外からの視線は気になりません。
さらに、奥さまはLD全体がひと目で見渡せる位置に対面式キッチンを希望し、シンクやIHコンロ、作業スペースの横幅を広く取りたいと思い描いていました。Kさんの「ホームバーがあれば良いな」との意見をプラスして、カウンター付きオールステンレスのキッチンをオリジナルデザインで造作してもらうことになりました。
「キッチン背面の造作棚は、収める器具や食器の種類を考えて仕切ってもらいました。それとは逆に、TVボードを兼ねたリビング壁の収納棚は細かく区切らず、そのときどきに合わせてディスプレーをアレンジできるよう大まかな造りにしてもらいました」と説明する奥さま。普段の暮らしを具体的に想像しながら、収納方法も適材適所を考えて選択。そのおかげで、入居時に新たな家具を購入せずに済んでいるそうです。
「森の雰囲気をイメージした庭」の景色が開口いっぱいに広がるリビングは、子どもたちにとっても居心地のよい空間。
「子ども部屋を与えて自室にこもってしまわないか心配しましたが、宿題もこちらでしています。それぞれがやりたいことをやりながら、自然と家族全員がリビングで過ごす時間が多いです」とKさんは満足そう。「この間取り計画は建築家からの提案で、わが家でも成功していると思います」と奥さまも同感の様子です。
キッチン裏手に配置された家事スペースや洗面所、トイレ、バスルームをまとめたサニタリースペース。「効率的な家事動線が考えられていて、助かっています」
その入口は、連子で採光や通風をコントロールできる連子窓(れんじまど)を取り付けた引き戸を設置しました。その佇まいは住まいに趣を加え、来客時には閉じ、お風呂の後は開放するなどの使い方ができます。開口幅は広めに取り、車いすでもラクに移動できるようにしました。
家計にやさしい省エネが環境に配慮したエコへ
2つの庭にそれぞれ設置した雨水をためる貯水槽は、トイレや庭への散水、池の水、洗車などに活用しています。「ご近所の水道料金と比べると約半分に抑えられているようです」と奥さま。
先に紹介した連子窓はリビングと1階個室の間の壁にも設置しており、リビングのクーラーで冷えた空気を個室へ流すなどの工夫を可能にしています。また、床下の一部に炭を敷いて湿気調整を図っています。
省エネな住まい方は家計にやさしく、地球環境に配慮したエコな生活スタイルに結びつく好例を実現しました。
写真ギャラリー
土地の持つ特性を引き出しつつ、多様な「場」を提供する空間づくりを
建築工房 空間舎 代表 玉城越也さん
Kさんとは学生時代からのつきあいという建築工房 空間舎の玉城越也さん。
「Kさんのお住まいがある地域は南城市の都市計画区域にあたり、建物のセットバックや屋根勾配指定などの制約がある新興住宅街です。その角地に建てるにあたって、プライバシーを確保しつつ、いかにして街とのつながりを持った構成にするかが課題でした」と当時を振り返ります。
Kさん夫妻からの第一の要望は、長男家であることから将来的に仏壇を持つことを想定し、リビングは親戚が一同に会することができる広さを確保することでした。Kさん夫妻から伝えていただいた要望を、玉城さんは建築家の立場からかみ砕いてイメージ化し、完成見学会や図などで具体的なイメージを共有しながら取捨選択を繰り返して、プランづくりを着実に進めたといいます。
そこから導き出した構成として、12メートル角の建物の中に6メートル四方の広間を中心に据え、広間からぬれ縁、コート(中庭)、花ブロックへと続く緩い空間の連続性を創造し、通風性とプライバシー性の両方を兼ね備えることにしました。
「花ブロックの塀は、お住まいになるKさんたちが植物を育てはわせた時が『完成』ですよ、と説明しました」と回想します。コートの奥行きがない分、リビングの掃き出し窓をサッシ4枚分と幅広く取ることで、緑の景色をより豊かに感じさせています。
玄関は一つのルームとして捉え、十分な広さを確保しました。足を踏み入れた途端、左右に伸びるコート、中央にはLDが広がる景色が、住まいの開放感を印象づけます。
家族間のコミュニケーションをなくさないよう、子どもたちがリビングを通って2階の子ども部屋へ行くような動線も希望されていました。そのため階段は、玄関から見てリビングの奥に配しています。実際に全員リビングで過ごすことが多いとうかがっており、設計プランの狙い通りといったところです。
2階には、まとまった屋上広場を配して1階のコートとは対照的な開放感のある「アキ」を持たせることにしました。
Kさんのお住まいには雨水利用をしており、勾配屋根面の雨水を2階の屋上広場の集水升(しゅうすいます)で〝ろ過〟し、地下タンクに約10トン貯水する計画をし、トイレの洗浄水や庭などへの散水、池の水に利用できるようにしました。
私は建築に取り組むとき、土地(場所)の持つ特性を引き出しつつ、多様な「場」を提供できる空間づくりを心がけています。