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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

伝統を未来へつなぐ木造のムートゥヤー

伝統を未来へつなぐ木造のムートゥヤー

DATA
所在地:宜野湾市
設計:株式会社琉球住樂 一級建築士事務所(担当/伊良皆盛栄)
敷地面積:542.42㎡(約164.08坪)
建築面積 :159.79㎡(約48.34坪)
延床面積:133.62㎡(約40.42坪)
用途地域:第一種中高層住宅専用地域
構造:木造軸組工法平屋建て
完成時期:2014年10月
建築:株式会社琉球住樂
電気:テルヤ工業
水道:有限会社海西工業
キッチン・UB・トイレ:TOTO
内部建具:照屋木工
外部建具:株式会社エクセルシャノン
外構:金勢造園
屋根:有限会社八幡瓦工場
大工:大友内装・考技建
左官:仲松左官

かふう722号(2019年8月2日号)に掲載した「2018年度 木の建築賞」受賞作2点の家づくりをご紹介します。シリーズ2回目となる今回は、「伝統を未来へ繋(つな)ぐうちなー家」。今は貴重な、フクギや石積みの外壁に囲まれた敷地に建つ、木造のムートゥヤー(本家)です。

伝統を未来へつなぐ木造のムートゥヤー

外構を保存することを条件に両親が暮らす実家を建て替え

 本作は、Mさんのご両親のNさん夫婦が暮らしていたRC造の実家について、Mさんら子どもたちが中心になって建て替えの計画を進め、2014年に完成した平屋の木造住宅です。寄棟の屋根には赤瓦が乗り、南正面に軒の深い雨端空間を持つ家構えは、昔ながらの沖縄民家そのもの。間取りも床の間のある一番座、仏壇のある二番座を南東に配置するなど伝統的な形態を踏襲し、玄関土間の目の前にそびえる大黒柱やリビングダイニングの吹き抜けに架かる太鼓梁が、木の家ならではの存在感を示しています。一方では最新の技術と知見を駆使した断熱仕様を備え、真夏でも「エアコン一台で足りる」快適さを併せ持っています。
 建て替えの計画に際し、生前の父親と子どもたちとの間で何度も話し合いの場が持たれました。以前の住まいは段差が多く、母屋とは別にトイレが離れにあるなど「バリアフル」な造りだったため、5年後10年後の生活を見越して建て替えを薦めたMさんらに対し、旧宅に強い愛着を持っていた父親は現状維持を主張。また幅員が4メートル未満の二項道路に囲まれた敷地のため、建て替えとなれば法律上、フクギの屋敷林や琉球石灰岩の石積みを再整備しなければいけないことも懸念していました。しばらく協議は平行線をたどったものの、父親は徐々に軟化の姿勢を見せ、最終条件として「今ある外構を残して設計できる建築家を探してくること」を要望。いよいよ具体的に計画が動き始めました。
「木造にしよう」と方向性を決めたのは、依頼した建築会社と出会ってから。とある住宅イベントで同社の出展ブースが目に留まり、「木造という選択肢もあるのか」と初めて意識したMさんは、まずは一人で見学会を訪問。たちまち木の家の良さを実感し、その後に家族を引き連れ再訪して、全員で同じ思いを共有しました。そして最大の懸念事項だった外構の問題は、建築士の尽力により解決。フクギは根から掘り起こしてそのままセットバックさせ、石積みは再度積み直すことにしました。

伝統を未来へつなぐ木造のムートゥヤー

家の雰囲気や人の振る舞いに伝統のエッセンスを感じる

 Mさんによると、新居のサイズは以前と比べて3割増し。細かいプランのやり取りは弟が主に担当し、LDKや和室が細かく仕切られているか、オープンに連続しているのかという違いこそあれ、風水を意識した位置関係はほぼ同じ。家の周囲に配置された個室をぐるりと回れる動線も変わりなく、「今までの生活感覚のまま、ストレスなく暮らせるようにしたかったので」。大きく変わったのは、父母の個室近くにそれぞれトイレを置いたこと。室内はほとんどバリアフリーにして、廊下も車椅子が通れる広さに設定しました。
「父親は数年前に他界してしまったのですが、新居が完成したらしたでとても満足していましたよ。リビングの外のテラスに出て、庭を時折眺めながら新聞を読むのが日課でした」とMさん。父親が最後まで外構にこだわった意味は後からようやく理解し始め、「建物は新しくなったけど、見ている景色は昔のまま。何だか不思議な感覚です」。
 こんなこともありました。認知症を患った親戚が遊びに来た際、人も場所も判別できなかったにもかかわらず、「門回りを見た瞬間に、ああ、ここはNの本家だね、と記憶がつながったんです。以前の家の名残が感じられるように設計してもらえたことを改めて実感しました」。

伝統を未来へつなぐ木造のムートゥヤー

 快適な住み心地は言わずもがな。建築士の指示に従い、真夏でも個室以外の冷房は、10畳用のエアコン一台を28度設定で弱運転するだけ。技を尽くした美しい木組みは見た目にも和やかである上に、家にいる間ははだしで過ごし、木肌の感触を楽んでいます。
「先日、おいっ子めいっ子たちが大黒柱で背比べしているのを見て、私たちきょうだいも小さいとき、柱の太さは違えど同じことしてたよなあ、と懐かしくなりました」。家の造りもそこで過ごす人々の振る舞いも、伝統は未来へとしっかり受け継がれています。


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