琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 重箱にエビはありですか？
週刊かふう2023年11月10日号に掲載された内容です。
重箱にエビはありですか？
Q：沖縄の法事、重箱の中身について一品一品の意味はありますか？ 昆布に「喜ぶ」という意味があることは全国共通で知られています。本土ではおめでたいときの料理にエビが入っていますが、なぜ沖縄の重箱にエビは入っていないのか。叔母に質問したところ「昔からこれさ〜!」とのことでした。食材に罪はないのにとモヤモヤします。（Kさん）
A：重箱は、しまくとぅばで『ジューバク』と言われることがあります。ワカスーコー（若焼香〈一周忌〜十三回忌〉）・ウフスーコー（大焼香〈二十五回忌〉）・ウワイスーコー（終焼香〈三十三回忌〉）の主旨により、重箱の中身は異なることがあります。
ネット環境では、沖縄の重箱のことを『ウサンミ』ということが多いようですが、正式には、『ウサンミ』とは、中国福建省を起源とする、おかずのお供え物のことのみを指します。
『ウサンミ』を漢字で表現しますと、『御三味』となり、直訳は、『御』＝敬語、『三』＝奇数の総称、『味』＝食物、ここから、『奇数の尊い料理』と拡大解釈されます。
イラスト／帰依剛龍
《三枚肉の意味》
Kさんのご質問にもあります通り、重箱の代表的な材料であるシシ（三枚肉）の由来を調べてみました。
シシが重箱の中の一番上座（中央のお仏壇向き）にある理由として、昔は多くの家庭で飼育された貴重な栄養源であり、身近にある食材のなかで一番高価な食材だからという理由はわかりやすく、ウチアタイしつつ納得させていただきました。
シシは、山海の珍味の山（野）を象徴するとのことで、ハル（原っぱ）の恩恵を受けた豚をお供えすることにより、ジーチヌカン（土地の神様）のご加護をお敬い申す、ここから沖縄の儀式・法要を土台として支える土地に対して、畏敬の念を持つなどの解釈があるとのことです。
その一方では、次の方がグソー（後生〈ご先祖の世界〉）に連れていかれないための生け贄の食文化の象徴でもあると、私の恩師である琉球料理研究家の大御所、渡口初美先生が生前にお話をされていました。
シシのうち、特に三枚肉（豚バラ肉）にこだわる理由は、表裏論（表→陽→ティーダ〈太陽〉、裏→陰→ウチチ〈月〉）という陰陽道の考え方もあるとのことです。三枚肉は、皮の部分と肉の部分が明確であり、一周忌などでは悲しみを表現するため、また、生け贄とされる豚の身体を忠実に再現するため、皮（皮膚）が上側（表面）にくるお供え方法を採用します。一方、三十三回忌では、故人さまのお葬式から年数も経ち、もうグソーに連れていかれることもないとの考え方から、生け贄と間違いが起こらないよう、わざと皮を下側に向けて盛り付けるとのことです。
《エビを重箱に入れない理由》
Kさんのご質問にあるエビですが、エビについての禁止事項は目にしたことがありませんので、お好みであれば新しい重箱の品々として開発されてもいいような気がしないでもないですが……。エビに限らず、なぜ、重箱の中身が現在のものに選定されたのかの理由について、沖縄では現実的な解釈があります。先ほどのシシでも少し触れましたが、比較的、手に入りやすい、四季折々に影響されることが少ない食材という考え方があるようです。
とすれば今の時代、エビはいつでも購入できるはずなのですが……。私の沖縄のしきたりの研究では、多くの先生方、お供えされる皆さまのご意見によると、エビは腰が曲がっていることから長寿を表しますが、ご法事の重箱では、すでに腰が曲がる長寿を過ぎてお亡くなりになられている故人さまへのお供え物になることも想定されることから、長寿を意味するエビが入っていないとのことでした。実は、多くのユタ・ウサギヤ・サンジンソウ・カミンチュの先生方も、エビが重箱に入っていない理由をこのようにご説明されています。私より、シージャーカタ（目上）の先生方のご意見ですので、私もこの考え方を採用させていただいています。
追記：この原稿を書き終えた先日、名護市の老舗仕出し店の９品重箱には、特大のエビフライが入っていることを知りました。しっぽが重箱からはみ出る立派なエビフライでした。重箱に入れられた理由を人づてにうかがったところ、ウサンデーした後、皆さんが残さず召し上がってくださるからとのことでした。なるほど、グソーのウヤファーフジとイチミの私たち、沖縄の重箱は双方を敬う大切なものであることをあらためて学ばせていただいた思いです。
