琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A ヒラウコウで焼香すると香炉が割れる?
週刊かふう2024年1月12日号に掲載された内容です。
ヒラウコウで焼香すると香炉が割れる?
Q:
我が家の「あるある」で、ジュウルクニチーや旧盆のとき、50名以上の親戚がヒラウコウの3本ウコウを使い、次々と焼香するので香炉が熱を持ち、ほぼ毎回割れます。1本線香なら割れないと思うのですが、おじさん、おばさんたちから、1本線香では、「グソーゴクラクナランドー(成仏できないよ~)」と却下されます。ヒラウコウを使いながら、香炉を割らない沖縄のしきたりの秘伝はありますでしょうか?(石垣市・Mさん・60代)
A:
Mさん、ほぼ毎回、香炉が割れるのは大変ですよね。沖縄のお仏壇の香炉の買い替えは、旧暦7月7日(旧七夕)を選択される場合が多いので、時節柄にも左右され、さぞお困りのことかと思います。
お尋ねの秘伝……あります。存在するところが沖縄のしきたりの醍醐味かと思います。以下、詳しくご説明させていただきたいと思います。
イラスト/帰依剛龍
香炉が割れる原因
沖縄の香炉は、陶磁器で大変立派な仏具・神具ですが、縁(ふち)周りに多くのヒラウコウを焼香すると、香炉自体が熱で割れてしまうことがあります。同じ本数でも、縁周りではなく、中央に焼香すると、割れにくくなる傾向がありますので、参考にしていただければと思います。
また、香炉の中の灰の量が少ないと割れやすくなるようです。理想としましては、香炉の中間と最上部の真ん中辺りまで、灰を追加されるとよろしいかと思います。
しかし、Mさん家の50名以上の3本ウコウの場合、香炉の中央に焼香されても、香炉の灰を適量にされても、割れるときには割れると思います。
私の観察では、一般的な大きさの香炉に対し、20名以上が3本ウコウで焼香されますと、香炉の器が熱くなり、場合によってはヒラウコウそのものが真っ赤になることがあります(このような観察をするのは、私くらいなのかもしれませんが……)。ときには火柱が立つことすらあるかもしれません。そうなってしまいますと、一大事ですよね。
そのようなとき、先人の方々は、当然の如くその対処に行きつかれ、ヒラウコウで焼香しつつも香炉が割れない作法を今に伝えられています。それが、「直し香・半香」と呼ばれるヒラウコウの焼香方法です。
直し香・半香
「直し香・半香」はそれぞれ、直し香=ヒラウコウを直す、半香=ヒラウコウを半分以上燃えたところでお下げすることを意味し、ヒラウコウで香炉が割れないよう微調整する、まさに沖縄のしきたりの秘伝とありがたく拝見させていただいています。
この焼香方法に共通する考え方は、ヒラウコウが半分以上燃えれば、全部が燃えたことと同様に見なすという点です。「半分以上」というところが、沖縄のしきたりの経験値なのでしょう。半分といえども、ヒラウコウで焼香していることは事実ですし、香炉の灰までヒラウコウの熱が伝わらないので、ヒラウコウが根元から燃えて倒れたり、香炉が割れることもなくなることでしょう。
これらに学ぶべきところは、この半分以上燃えたヒラウコウを香炉から取り出すとき、すぐには捨てないというジンブン(知恵)です。一度、カビアンジャー(ウチカビをあぶる容器のこと)などに入れ、その中の水に浸すことにより、ウチカビと同様、燃え残った半分以下のヒラウコウも余すことなく、グソーへお届けするという考え方を実践されることがあります。
この直し香・半香は、例えば、旧暦朔日・十五日の仏壇・台所のヒヌカンにお供えするウブク(御仏供・お供えのご飯)をウサンデー(お下げ)するまでの時間がないとき、大雨・強風の中でのユスミ(四隅)のヤシチヌウグヮン(屋敷御願)のときなど、その応用は広く知られているようです。
お香は種類に関わらず、いずれも大変ありがたい敬いの象徴となります。1本線香でもヒラウコウでも優劣はありませんが、おじさん、おばさんたちのようなご意見があるようでしたら、Mさんから、ヒラウコウの直し香・半香について、お尋ねされてみるのも一案かと思います。おそらく、おじさん、おばさんたちは、直し香・半香のことをご存じかと思いますので、「上等だね~」とご評価を賜れましたら幸いです。