琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 知っていおきたい! トートーメーの専門用語①
週刊かふう2025年9月12日号に掲載された内容です。
トートーメーの『ハラコセキ』
Q:私の祖父母は、「ハラコセキのトートーメーが上等!」とよく言っていました。最近、小禄の占い師からも、「あなたの家のトートーメーは、ハラコセキだからウヤファーフジが見守ってくれている!」と褒めていただきました。あらためて、ハラコセキのトートーメーって何ですか?(那覇市・Aさん・60代)
A:沖縄のしきたりの『ハラコセキ』は、漢字に置き換えると『腹戸籍』になります。同じ読み方に、法律用語である『原戸籍』(正式には、改製原戸籍)がありますが、これとは異なるので注意が必要です。
腹戸籍の腹には、お母さんのお腹(なか)の中(胎内)という意味があり、ムンチューバカ(門中墓)で多く見かける、カーミヌクーバカ(亀甲墓・胎内墓)も、腹の文字を使用し、ハラバカ(腹墓)といわれることがあります。
ハラコセキのハラは、腹=胎内の意味から、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で守られている状態を表し、心安らかな所、癒しの泉などの解釈があります。専門的には、いのちの根源・原点・回帰などと訳すこともできます。
また『戸籍』とは、ウヤファーフジのお名前が書かれているトートーメーの木札のこと。つまり腹戸籍は、お母さん(ウヤファーフジ)に守られているお位牌(トートーメー)、または、当面、大きな問題(チョーデーカサバイ〈兄弟重合〉などの禁忌)がないお位牌を指すことが多く、理想的(原点)なトートーメーのことをいいます。言い換えれば、長男を中心とする、家系図どおりのトートーメーということなのでしょう。
ハラコセキのトートーメーは、Aさん家の先人のジンブン(知恵)やご苦労があってのもの、私たち一代では成し得ることができないものですから、感謝のお気持ちにて、ぜひ、今後とも大切にお敬いいただければと存じます。
トートーメーの『ワビスーコー・サビスーコー』
Q:近所のムヌシリ(物知り)のおばさんから、「あなたが離婚したのは、先祖へのウグヮンブスクが原因だから、トートーメーにワビスーコーしなさい!」と注意されました。ワビスーコーを確認すると、お詫びしながら焼香することのようです。離婚したのは、別の原因なのに、なぜ、トートーメーに謝罪しないといけないのですか?(名護市・Hさん・40代)
A:Hさん、離婚の選択は一大決心でしたね(新たなる人生の門出、心より応援いたします)。ここでも、ワビスーコーを漢字に置き換え、本当に、「お詫びしながら焼香する」ことなのか、再確認していきましょう。
沖縄のしきたりのワビスーコーのことをムヌシリのおばさまがおっしゃる、「お詫びしながら焼香する」と理解する方々は、専門の先生方にも多く見受けられます。それはそれで、詫びる=謝罪する=ごめんなさいの焼香でいいのかな? とは思います。でも、沖縄のしきたりには、ウヤファーフジに対し、詫びる習慣がないことも記憶に留めていただきたいところです。
よく、ウグヮンブスク(御願不足)から、「タタリ(祟り)・バチ(罰)が当たる!」という方がいられますが、トートーメー・ウヤファーフジは、タタリ・バチを当てることはありませんし、威嚇や恐怖をクヮンマガー(子孫)に与えることもありません。
ワビスーコーは、『詫び』とよく似ている漢字の『侘び』を用い、『侘び焼香』と訳すのが専門的です。侘びとは、茶道などで用いる、ワビ・サビの文化を表し、ワビ=慎ましい・奥ゆかしい・美しい、サビ=無常・悟りなど、このような意味から、トートーメーの素晴らしさを形容する、とてもありがたくも美しい専門用語となります。故に、ワビスーコーは、単独で使用する言葉ではなく、ワビ・サビと同じく、ワビスーコー・サビスーコーと双方をワンセットで使用することで知られています。
Hさんには、ワビスーコー・サビスーコーのお言葉を心の支えとし、今後もトートーメーを大切にされ、これからの輝かしい人生をしっかりと歩んでいただければ幸いです。