僕の好きな風景 第64回 低い天井も気持ちいい
天井いっぱいまで開口部を設けることで天井の圧迫感を緩和する
週刊かふう2022年10月7日号に掲載された内容です。
僕の設計は天井が低いということで知られています。
しかし、世の中は大手ハウスメーカーのテレビCMのおかげで、天井が高い方が気持ち良い、かっこいいというイメージが定着していて、僕の価値観とは逆行しています。
加えて、昔、お笑いタレントの“ふかわりょう”のネタで、音楽に合わせてエクセサイズ風のダンスの後に一言、「おまえんち、天井低くねぇ?」というお笑いネタが結構受けていたところを見ると、天井が低いことはイコール貧乏というイメージが日本中に行き渡っているのだと思います。
つまり、僕の設計は世間一般からすると気持ち良くなくて、カッコ悪くて、貧乏くさいということになるのでしょう?
ところが設計のプロの中ではむしろ低い方が気持ちいい、粋であると感じている方は少なくありません。
建築の名作の中には天井が低いのは珍しくなく、その空間を経験するととりこにされてしまうのです。
天井が低いのも、高いのも、空間が狭いことも、広いことも、光が明るいことも暗いことも、どれも気持ちがいい、それらを使いこなして心地よい建築をまとめ上げるのが僕らの仕事です。
若い頃、「天井が低くないですか?」と建主に相談されて、先輩に天井の低さを理解してもらうために何と答えたら良いでしょう? と相談したことがあります。答えは「気のせいですよ、と言え!」とのこと……思わず、吹き出してしまいました。
難しい建築論を語っても伝わらないので、やんわり笑いを誘うことが価値観を共有する第一歩だと教わりました。
「ふかわりょう」から「気のせいですよ」の持ちネタで建主の共感を得て、多様な空間を楽しんでいただけるように心がけています(笑)。
天井にむやみに照明をつけないこと、外部に流れるようにつなげていくことも圧迫感を緩和する