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僕の好きな風景 第85回「コク」のある空間

僕の好きな風景 第85回「コク」のある空間

薩摩中霧島壁という火山灰原料の土壁で仕上げられたリビング。素材の質感が空間のテイストを高めている

週刊かふう2024年7月5日号に掲載された内容です。

 

 建築空間に身を置いた時、様々な感覚を覚えます。

「軽やかな」「明るい」「重厚感あふれる」「ハリボテっぽいなぁ」とか、あるいは「木の香りがいい」「接着剤や塗料臭い」とか、その空間を思い出す言葉が浮かびます。

 若い頃は十分なコストをいただけない仕事が多く、手頃な工業製品でまとめ上げた「軽やかな」建築が多かったように思います。

 経験を積むに伴い、無垢の木や漆喰に代表される土壁などの自然素材を多用するようになりました。
 明る過ぎる空間に魅力を感じなくなり、光と影、明と暗の存在が建築の魅力を創り出すこともわかってきました。

 先日、引き渡し後5年たった住宅の撮影をさせていただいた時のことです。
 撮影に来ていただいたカメラマンの方が撮影に先駆けてひと通り下見をした後、「大人の空間ですね〜」と語ってくれました。
 カメラマンとしては陰影が魅力的で撮り甲斐があると感じたようです。
 この感想は設計者としてもうれしく思いました。

「大人の空間」を僕が普段使っている言葉に置き換えると「コクのある空間」・・・単に色が濃い素材を使って薄暗くなっているとか、凝ったディーテール満載だとか、アンティークの家具に囲まれているといった類のことではなく、空間のプロポーションや光環境の明暗のバランス、素材の質感が創り出す、総合的な複雑な魅力を感じる空間のことを指します。

 味わい深い、素晴らしい空間であるという最大の褒め言葉だと感じています。
「コク」のある空間が安定的に設計できるようになったら、やっと一人前かな?と還暦を過ぎて思えるようになったのですが、それを一般の方に伝えるのが難しい。

 明る過ぎない室内、質感のある自然素材、重心の低い照明計画が「コク」につながるかな?

僕の好きな風景 第85回「コク」のある空間

窓際に居場所をつくる。バルコニーは網戸で囲われた半戸外空間

僕の好きな風景 第85回「コク」のある空間

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