僕の好きな風景 第91回 壁がもたらす安心感
壁を背にソファを配置すると安心感と共に広がる視線が得られる
週刊かふう2025年1月10日号に掲載された内容です。
学生の頃、仲松弥秀さんの授業の中で「クサテ」(腰当)という言葉(思想)をはじめて知りました。
当時の僕の理解としては、子どもが安心していられる状態は親に腰を当てて抱っこされている形であり、沖縄の集落もそのように広がり、構成されているという内容だったと思います。
建築設計の仕事を生業とするようになって、壁の役割がまさしく「クサテ」(腰当)ではないかと思うようになりました。
沖縄の伝統的民家も開放的でありつつも、「トートーメー」に抱かれ、守られながら暮らす形です。
外に向かいながらも後ろ盾のある安心感……このような形を今の時代の設計に取り入れていきたいとなれば壁の存在が最も頼りになります。
壁は耐震的にも重要な役割を持ち、視線や音も防ぎ、絵や収納棚など暮らしに必要なアイテムも背負ってくれる力持ちでもあります。
僕の設計は開口部を大事にする設計だとよく言われますが、実は壁も同時に大事にしています。
リビングの中心となるソファの背面には壁があると、安心して外部へ意識が向かえます。
さらに壁の仕上げによって空間のテイストが随分と変わってくることも壁を重要視する理由のひとつ。
白い壁、無垢板張りの壁、左官塗りの壁を使い分けながら空間を整え、視線を外部へ抜いていく……壁は暮らしを守り、空間を彩る存在なのだと思います。
学生の頃、聞いた「クサテ」の思想は自分の設計の中にしっかりと息づいていているのだなあと感慨深く思うこの頃です。
頼りになる壁に守られて外に向かう。開口部と壁はセットで考える