僕の好きな風景 第30回 リノベーションの醍醐味
リノベーションの醍醐味
最近は新築ではなくて、リノベーション(大規模改築)を行う建築事例が増えてきました。伊礼智設計室でも時々、リノベの依頼が舞い込んできます。
リノベは新築に比べて手間が掛かり、難しく、何度も現場へ出かけて現状を把握しなければなりませんので、現場が近くでなければ引き受ける事はありませんでした。
今回初めてのマンションリノベの依頼を引き受け、それも、建築家として最も尊敬する吉村順三先生(東京藝術大学名誉教授)の手掛けた箱根山第2マンション。依頼者は大の吉村ファンで、どうしても僕に手を入れてほしいとのこと。このうれしさとプレッシャーはこの上ないものでした。
現場調査に行ったときの吉村建築の美しさには目を見張りました。「リノベする必要はないんじゃないの?」と素直に思え、プレッシャーはピークに達したのです。そうは言っても今の時代で暮らして行くには設備関係の不便さは免れません。
吉村先生の美しい空間を活かし、設備を刷新し、壁を漆喰で塗り直し、天井を木の無垢板で張り上げ、お風呂を木の浴槽に作り替え、一番の大仕事はアルミのサッシュをオリジナルの木の建具に作り替えました。
その効果は絶大で、箱根山の風景を取り入れ、まるで風景に溶け込むかのようなリビング空間となりました。
そして吉村先生のオリジナルの照明やゆかりの方々の家具を揃えて、そっと自分のデザインをまぎれ込ませました。
元の建築へのリスペクトと、それを活かしつつ、問題点を改善し、自分なりのデザインができた時にリノベの醍醐味を感じる事が分かりました。