新着 不動産相続Q&A File.35 「遺産分割協議」について
週刊かふう2024年12月20日号に掲載された内容です。
「遺産分割協議」について
不動産相続について司法書士の経験と目線から実践的なアドバイスや解決策を提供します。今回は、相続の基本とも言える「遺産分割協議」について、区長と青年会会長のユンタクで解説します。
【青年会会長（以下、青年会）】 区長、僕はどうすればいいんでしょう。
【区長】 今日も突然に始まるんだな。どうした、人生に迷ったのか？
【青年会】 オジイが亡くなって、オジイ名義の不動産と銀行預金があるんですが、いつものごとく「お前がなんとかしろ」ってオヤジに言われたんです……
【区長】 相変わらずだな。まずは相続人全員で遺産の分け方を話し合って（遺産分割協議）、不動産の相続登記や銀行預金の解約をするための遺産分割協議書を作成する必要がある。それで相続人はお父さん以外に何人いるんだ？
【青年会】相続人はオバア（配偶者）とオヤジを入れて兄弟（子）が４人ですけど、遺産分割協議って具体的にどう進めればいいんですか。
【区長】 最初に亡くなったオジイの生まれた時から亡くなるまでの連続した戸籍謄本（戸籍・改製原戸籍・除籍の３種類）を取得して、オジイの相続人を確定する。戸籍を取ってみると家族の知らない相続人が出てくる可能性もあるぞ。
【青年会】 オヤジの血筋ならあり得ますね。
【区長】 次にオジイの相続財産を確定するために役所の固定資産税の担当課に行って、オジイ名義のすべての不動産の「固定資産評価証明書」を請求する。墓地や公衆道路、畑などの固定資産税が非課税になっている不動産は、毎年送られてくる固定資産税納税通知書に載っていない場合があるので、評価証明書を取得して相続の対象となる不動産を確認しておく必要があるんだよ。
【青年会】 非課税の不動産が遺産分割協議の対象から漏れてしまうと遺産分割協議をやり直さなければならないからですよね。
【区長】 その通り！ オジイの銀行預金については通帳で確認する。通帳が無ければ取引銀行に行って相続人であることを証明する戸籍等を提示して照会する。
【青年会】生命保険の保険金はどうなるんですか。
【区長 】 受取人の指定があったり、保険の規約で相続人が受取人となっている場合は、相続財産とはならない（相続税の対象にはなる）。
【青年会】 なるほど分かりました。それでも相続に慣れていない相続人同士で遺産分割協議をして遺産分割協議書を作成するのは、結構難しいんじゃないですか。
【区長】 専門家に相談するのも一つの選択肢だ。相続の状況別に相談する専門家の例を挙げてみようか。
【弁護士】遺産分割協議を自分の代わりにしてほしい場合、相続人間の話し合いがもめそうな場合やもめている場合
【税理士】相続財産が相続税の基礎控除額（3,000万円＋600万円×法定相続人の数）を超える場合やその判断がつかない場合
【司法書士】不動産の名義を変える必要があり、分割方法について相続人間で合意ができている、もしくはできそうな場合
まあ、大ざっぱに言うとこんな感じかな。
【青年会】 言い忘れていたんですが、オバアはアルツハイマー型認知症で老人ホームにいるんです。
【区長】 認知症で判断能力が無いと医師が診断している場合、家庭裁判所に申し立てをして成年後見人を選任しなければ、オバアは遺産分割協議に参加できないぞ。
【青年会】 じゃあ、オバアの成年後見人を選任してもらいに家庭裁判所に行ってきます。
【区長】ちょっと待て！ 成年後見人の制度は判断力の無くなった人（成年被後見人）の生活や福祉環境を守るためにあるから、遺産分割協議のためだけに成年後見人の選任を申し立てるのは、この制度の趣旨ではない。
【青年会】 そうなんですか。
【区長】 それに、親族の希望する成年後見人が選任されるとは限らないし、仮に親族が選任されたとしても成年後見人は成年被後見人が亡くなるまで原則やめることはできない。また、家庭裁判所への定期的な報告義務などの負担があることも事前に知っておかなければならない。
【青年会】 安易に考えてはダメなんですね。オバアのためになるように家族でちゃんと話し合ってみます。今日はありがとうございました。
【区長】 それがいい。～しかし、今日の青年会はやけに素直だったな。おかげでオチがなかったじゃないか（区長の心の声）～
