基礎からわかる相続Q&A SEASON4 File.6 特別受益と持ち戻し免除について
週刊かふう2025年6月20日号に掲載された内容です。
Q.
父と共に農業を営んできた私は、父の体調悪化を機に畑と自宅を贈与され名義も変更されました。父の死後、兄から遺産分割の話があり、私は既に特別受益を受けたため、預金と貸駐車場地を兄が相続すべきだと主張されました。特別受益とはどのような制度なのでしょうか。また、兄のいうとおり父名義の遺産を分けなければならないのでしょうか。
私の父は、それなりに大きな畑を持っており、そこでレタス等の野菜を栽培して出荷していました。私は、学校卒業後、ずっと父と一緒に野菜を栽培してきました。父が腰を悪くしてからは、私がほとんど畑作業を担うようになりました。そのためか、父は畑と畑から近い自宅を私に贈与してくれ、畑と自宅は私の名義となりました。
昨年、母に続いて父が亡くなってしまいました。葬儀や四十九日などは、つつがなく終了したのですが、先日、兄から遺産分割の話がありました。兄の話では、現在父の名義となっている遺産は預金と駐車場として貸している土地があるそうです。預金と駐車場として貸している土地の価値を含めると、現在は私名義となっている畑と自宅不動産と同じくらいの価値だということで、私は既に父から畑と自宅の特別受益を受けているから預金と駐車場の土地は兄が全部取得したいとのことでした。
私は父の家業をついだことで預金などに関して全く相続できないということにはちょっと納得がいきません。特別受益とはどのような制度なのでしょうか。また、兄のいうとおり父名義の遺産を分けなければならないのでしょうか。
A.
被相続人から相続人の一部に被相続人の生前に財産が与えられる場合があります。このような場合、一部の相続人が受領した財産を含めて相続分を算定する特別受益の制度がありますが、生前の贈与をすべて含めて相続分を算定すると被相続人の意図しない結果となってしまう場合もあります。特別受益を考慮しなくてもいい例外について見ていきましょう。
相続人の中に、被相続人から生前に婚姻または養子縁組のための贈与、学資、その他生計の資本としての贈与や遺贈を受けた人がいる場合、その受けた利益のことを「特別受益」といいます。
特別受益が認められる場合には、利益を受けた相続人がいわば相続分の前渡しを受けたものとして、遺産分割において、その特別受益分を遺産に持ち戻して(これを「特別受益の持戻し」といいます)、具体的な相続分を算定するのが原則です。
例外としては、被相続人が特定の相続人への生前贈与や遺贈を、その人の特別の取り分として確保してやり、持ち戻しをさせないという意思(持ち戻し免除の意思表示と言います)を明らかにした場合は、その意思を尊重する必要があるとされており、特別受益の持戻しをしないことになります。また、持ち戻し免除の意思表示は、書類に記載された明示的になされた場合だけではなく、被相続人の行動や状況から推測される黙示的なものでも認められることがあります。
相談者の場合、お父さまから相談者への畑と自宅の不動産の贈与は、生計の資本としての贈与に該当すると考えられます。また、遺言書等の書類で持ち戻し免除の意思表示が明示的になされたものとも言えなさそうです。もっとも、相談者は学校卒業後、野菜栽培に従事し続け、お父さまの家業を継いでいるものと考えられます。このような家業を継いでいる方への生前贈与について黙示的な持ち戻し免除の意思表示を認めた裁判例があり、本件でも黙示的な持ち戻し免除の意思表示があったものと認められる可能性があります。
持ち戻し免除の意思表示があったと認められる場合、贈与を受けた方も他の相続人と同様に、相続分に応じて被相続人の遺産を取得することになります。本件で、お父さまから相談者への畑などの贈与について持ち戻し免除の意思表示があったとすれば、相談者も駐車場の土地や預金などについて、相続分に応じて取得できる可能性があります。
まずは、弁護士や税理士など専門家へご相談されることをおすすめします。
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