基礎からわかる相続Q&A SEASON4 File.9 土地の賃借人が死亡し相続人がいない場合

週刊かふう2025年9月19日号に掲載された内容です。
Q.
父から相続した土地に、父の代からの賃借人が建物を所有していましたが、賃借人は昨年亡くなり、相続人も相続放棄をしています。地代の支払いもなく、建物は空き家で荒廃しています。土地の明け渡しと建物の収去を求めたいが、相続人不在のため対応に困っています。
私は、父から相続した小さな土地を所有しています。賃借人は、父の代から土地を借りて住宅を所有している高齢の方です。父がこの方に土地を貸したのはかなり昔のことなので、書類などは残っていません。この方は施設に入所しているようで、家には誰も住んでいる様子がなく、家もあちこち傷んでいて全く手入れされていない状態でした。
しばらく地代の支払いがなかったので、どうすればよいのか困っていたのですが、この方のお子さんという方から連絡があり、この方が昨年亡くなっていたこと、この家以外に財産がなかったことがわかりました。
私としては建物を収去して土地を明け渡してほしいということをお話ししたのですが、お子さんは相続放棄をしたとのことで、亡くなった方のご兄弟も相続放棄をしたとのことでした。
どうすれば建物を収去して土地を明け渡してもらうことができるのでしょうか。それが難しいとしてもこちらで住宅を収去することはできますか。
A.
契約関係にある方が亡くなった場合の取り扱いは、契約の種類によって異なります。ここでは、土地の賃貸借契約で賃借人が亡くなった場合にどうなるのか見ていきましょう。また、事情によっては相続放棄を選択するケースもあります。その結果、相続人がいなくなった場合に、どのような手段がとれるのかについても見ていきます。
本件では、もともとはお父さまと賃借人の方との間で土地の賃貸借契約が成立しており、お父さまの貸主としての地位は相談者に相続されています。
土地を賃借されていた方の賃借人としての地位も、貸主としての地位と同様に相続の対象となりますが、本件では賃借人の相続人の皆さまが相続放棄をしており、相続人がいない状態となっているようです。
本件ではしばらく土地の地代を支払ってもらっていなかったとのことですので、相続人がいる状態であれば、その方に未払い賃料の支払いを請求し、支払いがなければ賃貸借契約を解除することが可能でしたが、相続人がいないことで、現状ではこの手続きを取ることができない状態です。もちろん、賃借人のお子さんたちは相続放棄しておりますので、この方たちに建物の収去等を求めることはできません。また、建物は相談者のものではありませんので、相談者がきちんとした手続きを経ずに自分で建物を取り壊すこともできません。
建物の収去と土地の明け渡しを求めて裁判をするための手段としては、裁判所に特別代理人の選任を求めたうえで、特別代理人を相手方として訴訟提起をすることができます。もっとも、特別代理人を選任してもらって建物収去土地明け渡し判決をとっても、その後実際に建物を取り壊すために強制執行をする際には多額の費用がかかってしまいます。
本件で適していると思われる手段としては、家庭裁判所に相続財産清算人選任の申し立てを行い、相続財産清算人と協議の上、建物を買い取ることが挙げられます。本件で相続財産清算人から建物を買い取ることができれば、建物の取り壊しには強制執行は不要となり、相談者がご自分で業者を選定して建物を取り壊すことが可能となります。
相続財産清算人の選任のためには裁判所に予納金を納める必要があり、相続財産清算人は相続財産全体について管理・清算する必要がありますが、亡くなった方のお子さんの話では、亡くなった方の財産は本件建物だけとのことでしたので、本件の相続財産清算人の業務としては限定的なものとなると見込まれるため、本件ではこの手続きが適していると思われます。


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