知っておきたい 相続の基礎Q&A File.1
週刊かふう2020年1月24日号に掲載された内容です。
遺産分割の調停と審判について
私、弁護士の城間博が「相続の基礎」というテーマでこの欄を担当させていただくことになりました。日ごろの相談でよく聞かれることを中心に、事例に沿って知っておきたい法令や情報を解説していきたいと思います。お手続きの参考や皆さまの疑問へのとっかかりになれば幸いです。
Q.父親が亡くなりました。
遺言書などは作成されていなかったようです。相続財産として、父親名義の実家の土地建物があります。母親は既に他界しており、兄弟は3人です。
しかし、兄は自分が長男なので家は全部自分が継ぐの一点張りで、具体的な相続の話ができていません。また、年の離れた姉がずっと前に外国の方と結婚して外国に行ったのですが、20年以上前から音信不通です。
このような状況で相続の手続きを進めることはできるのでしょうか。
調停というものがあると聞いたのですが、どのような手続きですか。また、他に審判というのもあると聞きました。どう違うのでしょうか。
A.誰かが亡くなった時に、遺言などが用意されていなかった場合、その方が生前持っていた財産(これを遺産と言います)を各相続人で分けなければなりません。
まずは本件の相続人について整理しましょう。お父さまが遺言を作成していなかったので、今回の相続人は法律の規定で判断することになり、亡くなられたお父さまの子どもである相談者とお兄さん、お姉さんの3人が相続人となります。
次に、相続人の相続割合について整理しましょう。法律上、同順位の相続人の相続割合は平等ですので、みなさん3分の1ずつです。お兄さんが主張するように、長男だからと言って財産を全部継ぐということは原則として認められず、例外的に他の相続人全員の承認があって初めて認められるものです。
遺産分割協議は、各相続人で話し合いを行うことですが、本件ではお兄さんの態度からすると遺産分割協議をまとめるのは難しそうです。
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることが考えられます。遺産分割調停では、2人の調停委員が間に入り、話し合いを進めていきます。話し合いといっても、相続人全員が同じテーブルについて対面で意見を言い合うのではなく、調停委員2人と各当事者が順番に話をし、調停委員に自分の意見をお話しします。ですので、他の相続人と直接話し合う必要はありません。調停員は中立の立場で交互に関係者の話を聞き、各当事者に資料の要請をしたり提案を行ってくれます。この調停で話がまとまればいいですが、調停はあくまでも話し合いですので、相続人全員が納得しない限り、成立しません。
遺産分割調停が不成立で終わると、審判に移行します。遺産分割の審判では、調停とは違って、相続人全員の意見がまとまらなくても、裁判所が主張や証拠から分割内容を決めることになります。このように相続人全員の合意を必要としない点が、調停と審判とでは大きく違います。なお、調停が不成立になっていないのに最初から審判を申し立てることは原則としてできません。
さらに、本件では、お姉さんが音信不通になっているという問題があります。お姉さんとなんとか連絡が取れて、調停手続きに文書を郵送するなどして参加していただけたらいいのですが、お姉さんが行方不明の場合、お姉さんについて家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申し立てをし、お姉さんの不在者財産管理人に調停手続きに参加してもらうことで、ようやく手続きを進めることができます。