沖縄ミステリーツアー となりのマジムン 第23話 「イチジャマとは何か? その①イチジャマの歴史」
イラスト︰ニシムラトモコ
呪い殺すとは??
イチジャマという言葉を聞いたことがあるだろうか? これは方言でいわゆる「生き霊」のことを指す。沖縄では死んだ人の魂のことを「シニマブイ」と呼び、生きている人の霊、すなわち生き霊のことを「イチマブイ」もしくは「イチジャマ」と呼ぶ。W・P・リーブラの『沖縄の宗教と社会構造』(弘文堂)によると、イチジャマを飛ばすものはイチジャマーと呼ばれ、その多くは女性であるという。
1679年の当時の裁判記録『琉球評定所文書』によると、八重山島に住む女が生き霊を飛ばして男性を殺害、その男性の弟も同様の方法で殺した。女は過去に三人の人間を同様の方法を用いて殺しており、引き回しの上、死罪になったと書かれている(参照/高良倉吉・著『琉球王国史の課題』ひるぎ社)。
つまり生き霊を飛ばして他者を殺した女性が、死刑になったと書かれているのだ。現代なら考えられないことであるが、これはもしかしたら冤罪なのだろうか。それとも実際にイチジャマで人を殺したのだろうか? 今となっては、それは誰にもわからない。
イチジャマの歴史
誰だって生きている上で他者に嫉妬をしたり、妬み恨みを抱いたことはあるだろう。そういうものが発芽となって、他者に思念が飛んでいく。そして思念は相手を呪い殺すというのが、沖縄におけるイチジャマの考え方である。
こういう話もある。沖縄は昔、北山、中山、南山の三山に分かれて抗争を繰り返していた時期があるが、平和主義の沖縄にとって、唯一の戦国時代でもあった。戦いの最前線には当時の武士(ブサー)、武者(ムシャー)たちが武器を取って戦っていたのであるが、その背後には、それぞれ念を飛ばして相手を倒す、いわゆるノロたち女性の姿があったという。中でも久米島出身の君南風(ちんべえ)というノロがいたが、彼女は戦う者たちの背後で、このイチジャマを使って味方を防御していたという。
歴史的にはこのような話がごまんと出てくる。一種の見えないモノに対する信仰心だとも解釈できるだろうが、それではイチジャマを飛ばされたものは、一体どうすればいいのであろうか?
イチジャマを防ぐ方法
よくテレビや書籍などで、現代の占い師や霊能者がこんなことを言う。「死んだ人より、生きている人の生き霊のほうが怖い」。これはどういう意味かと言うと、死んだ人の霊は人間に対するように説得すれば上に上がる(天国に行く)のであるが、イチジャマの場合はそうはいかない。生きている相手の憎しみが消えなければ、イチジャマは決して絶えることがないのである。
谷川健一編『南東の村落』(三一書房)によると、当時、土人形に針を刺して、嫌いな人物の腹を痛めるという行為があったという。いわゆる藁人形などのヒトガタに念を込めるという、本土でもおなじみの丑の刻参りのような呪いが沖縄にもあったわけである。
昔の本などによると、こんなことが書かれている。イチジャマがやってきたら、わざと家の中に上げて、糞の入ったお茶を飲ますと、相手は退散する。糞を振舞うという方法は、一種の呪い返しのようで、いくつかの文献で読んだことがある。まあ実際に糞の茶を入れるなんて、そんなことは行いたくないのが人情だろうけど、昔の人は実際に行っていたようだ。
この話から読み解くと、イチジャマは目に見える形でやってくるのだろう。また豚の糞を投げ返すとか、寝る場所の枕元に刃物を置くとか、いろいろな方法があるようだ。また相手がわかっている場合は、相手の名前をフルネームで呼び、その相手のいる方向を指差しながら、「お前のやっていることはわかっている」といって呪詛を返すといった方法もある。
さて今回は長くなったので、次回は後半ということで、さらに深くイチジャマの歴史を見ていこうと思う。