沖縄ミステリーツアー となりのマジムン 第20話 「人に優しく 最後は怖い インガマヤラウ」
伊良部島に語り継がれる化け物
宮古地方には特徴的な民話が多い。その代表的なものが、今日紹介するインガマヤラウのお話である。『伊良部郷土史』(大川恵良著。昭和49年)によると、その頃伊良部島にヤラウガサツという場所があって、そこにインガマヤラウという名の化け物が住んでいて、人間と交流し仕事も共同で行っていた。ある日人間の友人と漁に出掛けてイカを大量に捕ったのだが、友人は外側のおいしいところを持ち帰り、インガマヤラウには内側の骨しかもらえなかった。次に友人と山へ薪を取りに行ったが、薪を拾うのは人間、インガマヤラウはそれを山ほど背負って運ぶ係であった。しかも帰り道、背中に背負った薪からバチバチと音がする。結局それは友人が背中の薪に火をつけたのであって、インガマヤラウは結果大やけどを負うことになった。
インガマヤラウ
家に放火される
そして家に帰ると、今度は家が燃えてしまった。結局友人が放火したのであるが、そうとは知らずにインガマヤラウは彼の元にやってきてこんなことを相談するのだ。
「最近、このあたりでは悪者がいるみたいで、昨夜僕の家は焼け落ちてしまった。君も気をつけなよ。僕はもうこのあたりには住めないから、八重山に行こうと思う。向こうで成功したら君も呼ぶからぜひとも訪ねてきて」
友人は何も知らない振りをしながら受け答えした。もうこの時点で人間はサイコパスな感じでどうしようもないのであるが、インガマヤラウは「本当にいい友達だ」と感心しながら八重山行きの船に乗る。
八重山に着くと、しばらくして友人にインガマヤラウから「こちらで成功したのでぜひ遊びに来てくれ」と招待があった。そこで友人は喜んで八重山に渡り、インガマヤラウは自分の大切な友人をこれほどかというほどもてなして、歓待の限りを尽くした。
ように見えた。ここからが話の肝。インガマヤラウの百倍返しの話が始まる。
帰りの船でお土産が……
友人は八重山で歓待を受けたので喜んで船に乗った。すると宮古島行きの船員が話しかけてきたので、友人はインガマヤラウのことと、お土産について話した。すると船員がお土産の中身を見たいという。しかしそれはインガマヤラウから「これは君にだけあげる大切なお土産だから決して人前で開けるな。締め切った場所で一人で開けるように」と言われていたものであった。だがサイコパスな人間なので、きっと船員たちの期待に応えようと、キャッキャしながら船の上で箱を開けたのだろう。すると中からは大量の蚊が飛び出してきた。
マラリア大量発生
その箱には友人の正体を知ってしまったインガマヤラウが、マラリア菌を媒介させる蚊を大量に閉じ込めてあった。これを開いた場所というのが現在の来間島の西側の海であり、おかげで来間島はマラリアが大流行し、一家全滅するところも出たという。友人と船員たちはなんとか助かったと書かれてあるが、このおかげで伊良部島の人間は来間島には住めなくなってしまった。人間のむごさも露呈する話であるが、マラリア蚊の詰まった箱を締め切った部屋で開けさせるインガマヤラウの復讐も、言葉を失うくらいに恐ろしい。だが友人はこれでも助かってしまったのである。その後、インガマヤラウは友人が生きているのを知ってどう思ったであろうか。第2段の復讐をたくらんだのであろうか。あるいは寛大な心で相手を許してしまったのか。物語はこれ以上語られないので、私たちの心の中で続きを紡ぐしかないのであるが、果たして皆さんの心の中の続編では、インガマヤラウはその後どうしたと思うだろうか?