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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

自然の揺らぎに心和む。 庭がいつも隣にある家

自然の揺らぎに心和む。 庭がいつも隣にある家

DATA
設  計: アアキ前田株式会社
     (担当/前田慎)
敷地面積: 約190.00㎡(約57坪)
建築面積: 約100.00㎡(約30坪)
延床面積: 約100.00㎡(約30坪)
構  造: 壁式鉄筋コンクリート造
完成時期: 2021年12月
施  工: 株式会社玉那覇組
     (担当/金城守)
電  気: 株式会社ゼネラル建設
     (担当/新川秀吉)
水  道: 有限会社ライフ工業
     (担当/我喜屋奨)
キッチン: 沖縄協同ガス株式会社
     (担当/大嶺元康)

坂上の住宅地に建つHさん宅は、家の中心に庭を置いて採光・通風を確保した、いわゆるコートハウスです。
視覚面でも実用面でも、居住スペースと庭とが一体的に感じられ、毎日の暮らしに自然な潤いが生まれています。

週刊かふう2022年12月2日号に掲載された内容です。

自然の揺らぎに心和む。 庭がいつも隣にある家

フルオープンできるガラス戸と木製サッシが、庭との連続性を高める

 形状だけ見れば「中庭を囲む家」。オープンエアの庭の周囲にLDK・玄関土間・個室がぐるりと配置され、家中を止めどなく回遊できます。
 床面積約30坪と親子3人暮らしには標準的なサイズの住宅ですが、視界には常に庭が映り込んで開放感があり、字義通りの「囲んでいる」雰囲気はほとんどなし。庭に面したリビングのガラス戸はフルオープンにでき、自然な風合いの木製サッシとデッキが屋外との連続性を高め、日々の暮らしに庭が「寄り添って」いるかのように感じられます。

「趣味の読書に浸れる空間がほしかったんです。ゆっくりできる時はソファに座って、窓の外に時々目をやりながら、本を読んで過ごすことが多いですね」と奥さま。周囲の住宅地からの視線をカットしたコートハウス式の環境でも、庭を照らす光の濃淡によって天気や時間の移ろいを察知でき、晴れた夜は天空から月明かりが届きます。
 一方で庭を挟んだリビングの対面には、ご主人の書斎と長男の学習机を兼ねたワークスペースがあります。窓際に造作したテーブルは、2人が横並びに座っても余裕があって使いやすく、仕事・読書・勉強はもちろん、子どもの工作にもうってつけです。

 設計を手がけた建築士との出会いは、8年ほど前に訪れた住宅展にさかのぼります。確たるコンセプトと独創性を備えた作品展示に魅力を感じ、さらに「困難かな?と思っていたアイデアについても真剣に耳を傾け、前向きな回答をくれた」姿勢に好感を覚えました。
 その後しばらくはマイホーム計画が難航し、誰に相談することもなく保留状態が続きましたが、周辺環境・予算等の条件にかなった現在の土地を3年前に購入。Hさんは迷いなく当の建築士事務所を訪問し、早々にオファーを済ませました。

自然の揺らぎに心和む。 庭がいつも隣にある家

家事効率を高める回遊動線、多目的に使える玄関土間

 Hさんが見立てた通り、建築士提案のプランはユニークな上に機能的。庭を中心にぐるぐると回れる動線は生活効率アップに貢献し、「料理・洗濯・掃除など、何をするにもとにかくスムーズ。家事負担が減って大助かりです」。水回りは2層構造になっていて、キッチンと寝室を結ぶ廊下沿いに洗面室・バスルーム・トイレが並び、キッチン背面のドアを開けると、洗面室に通じる室内干し場が現れます。

 広々とした玄関土間も大きな特長です。室内外の中間的な性格を持つスペースとして多目的に使用でき、自転車など大型荷物も保管できます。目の前の庭とは視覚的な一体感があるだけではなく、ガラス戸を開ければ空間自体がダイレクトにつながって、土間を介して庭作業をしたり庭遊びをしたり、実用面でも役立ちます。

 各スペースのデザインには、お2人のささやかなこだわりを詰め込みました。「直線的でシンプルな空間にしたい」というご主人の意向をベースにしつつ、奥さま好みの「南仏プロヴァンス風のかわいらしい家」的な要素として、キッチン脇の廊下天井などにアールの形状を取り入れてやわらかさを演出。またキッチン背面の壁と玄関回りの外壁は、奥さま指定のミントグリーンで仕上げ、ブラウンの落ち着いた基調の中に爽やかなアクセントを加えました。

 入居してすぐに生活リズムが整い、住み心地のよさを実感する毎日ですが、庭の使い方だけは試行錯誤の最中です。「ライトアップ用の照明は既にあるのですが、肝心のシンボルツリーがまだ準備できていない。現在の芝生に替えて、家庭菜園をつくる計画もあります」とご夫妻。その時々で姿を変えながら、暮らしに潤いを運んでくれそうです。

写真ギャラリー

自然の揺らぎに心和む。 庭がいつも隣にある家

室内床を片持ちにして張り出し、道路境界いっぱいまで居住空間を確保
庭とLDK・玄関土間を一つの視界に収め、数字以上の開放感を創出

一級建築士:前田慎さん

 限られた面積・予算の有効活用は、プロジェクトを問わず常に付きまとうテーマです。今回のHさん宅もご多分に漏れず、必要な駐車スペースを割いた上で、親子3人が無理なく暮らせる居住空間の確保が求められました。

 敷地面積は約60坪。一部を除き、道路境界面とは高低差があり、コーナー部分は擁壁になっています。一般的には擁壁から少し離して基礎を配置し、外周に外塀やフェンスを設けますが、それでは建物との間に無駄な余白が生じてしまいます。そのため基礎から室内床を片持ちにして張り出し、境界面いっぱいまで建物を拡張。構造上の無駄を省き、貴重な資産を最大限に生かしました。

 室内の計画としては、周囲に家々がひしめく住宅地であることを考慮して、建物内に庭を置いて採光・通風を図る、内側に開いたプランを提案しました。庭を中心にして家中をぐるぐると回遊でき、行き止まりのない動線を組み立てるとともに、どこにいても庭を介して家族の気配が感じられるように、各居室・スペースのレイアウトを決定。庭とLDK・玄関土間をそれぞれ一つの視界に収め、庭との一体感を高めることで、数字では表せない広がりを感じさせる空間設計を目指しました。

 無駄を省いたプランニングは、前述の片持ち構造同様に室内でも徹底しています。
 例えばHさん宅には単なる通路としての廊下はなく、他の用途を備えたスペースが通路の一部を兼ねています。親子共用のワークスペースは、個室エリアを貫通して水回りと玄関を結ぶ通路でもあり、個室とリビングを行き来する際には、必然的に玄関土間を横断します。この他、エアコン室外機などの点検スペースは、外観意匠を損ねず作業しやすいように、室内干し場を通り抜けた先の外壁に囲まれた場所に設置。バスルームとトイレの換気窓も、ここに位置を合わせて設けています。

 デザインについてもアドバイスしました。室内のメインカラーを白ではなくブラウン系でまとめたのは、「反射が強いと明るすぎて落ち着かない」という私の自宅の経験を踏まえてのもの。またLDKの照明は、3列のペンダントが切妻屋根のシルエットを描くように長さを調整して、長手方向に並べています。

設計・施工会社

那覇市首里平良町1-29-8 ライオンズマンション首里102

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