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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

天空からの光が切り込んだ スキップ構造の2世帯住宅

天空からの光が切り込んだ スキップ構造の2世帯住宅

DATA
設  計: アアキ前田株式会社
     (担当/前田慎)
敷地面積: 165㎡(約35坪)
建築面積: 76㎡(約23坪)
延床面積: 127㎡(約38坪)
用途地域: 第一種中高層住居専用地域
構  造: 壁式鉄筋コンクリ―ト造
完成時期: 2021年1月
建  築: タカミ株式会社
     (担当/金城哲也)
電  気: 美光電装
水  道: ライフ工業

Mさん宅は1階に独立した2つの玄関を持つ2階建ての2世帯住宅です。
敷地の高低差から生まれた外観フォルムはインパクトがあり、密集地でありながらも降り注ぐ光を上手に取り込んで、空とのつながりを感じる快適な暮らしを楽しんでいます。

 

週刊かふう2023年4月21日号に掲載された内容です。

天空からの光が切り込んだ スキップ構造の2世帯住宅

青空まで吹き抜けになった光あふれる2階階段ホール

 ぬッ、と壁から突き出たコンクリート打ち放しの箱が、Mさん宅の外観のトレードマーク。3メートル以上の奥行きのある巨大な塊が、支える柱もなく前面の通りに迫るその姿は、デザイン的なインパクトとともに建築的な魅力をも感じさせてくれます。
 間取りとしては中2階の主寝室にあたり、「部屋をただ置くだけではもったいない、駐車場の屋根を兼用しましょう、という建築士さんの提案から生まれた造形なんです」とご主人。Mさんファミリーが日常生活を送る2階の子世帯フロアからは半階下りた場所にあり、つかず離れずのほどよい距離感が暮らしの幅を広げています。

 2世帯の新居が完成したのは約2年前。奥さまのご両親との同居計画が持ち上がったことを機に家づくりを始め、宜野湾市の住宅街にある約50坪の土地を購入しました。ご主人の上司らから評判を聞いていた建築士をすぐさま訪ね、半ば既定路線だったかのように設計を依頼。大まかな要望を伝えて最初に提示してもらったプランは、現在の家の形とほぼ違わぬ納得のものでした。

 1階親世帯、2階子世帯の玄関はどちらも1階にありますが、入り口は別。2階行きのドアを開けて内階段を上り、スキップフロアの主寝室で折り返すと今度は両サイドの壁がガラス張りに変わり、一段ごとに明るさを増していきます。
 左手には屋上へ続く階段が延び、青空目がけて一直線。燦々(さんさん)と降り注ぐ光が階段ホールを満たし、ガラス戸を通して右手の2階生活スペースまで浸透してきます。差し込む光の加減によって天気や時間の移ろいも感じられ、「密集地なので大きな開口部を取れないことが気がかりでしたが、無用の心配でしたね」とご夫妻。光と一緒に風も視線もよく通る、開放感あふれる空間に仕上がっています。

天空からの光が切り込んだ スキップ構造の2世帯住宅

リビング基点の動線設計。屋上までも階段で直結

 2階生活スペースは正方形。階段に面した約半分の面積をリビングが占め、残り半分をキッチンと子ども室で分け合うようにレイアウトされています。「団らんの場であるリビングはできるだけ広く取りたい」というお2人の要望は見事に実現し、これも当初からリクエストしていた小上がりの畳間と書斎スペースがリビングの一角に置かれています。
 当初想定していた「独立した書斎」はスペースの関係で断念しましたが、それでも小上がりの段差に腰掛けてパソコン作業をしたり、寝転んで一休みしたり、自由にのびのびと使うことができます。

 小上がりに隣接する子ども室は可変式。現在は仕切り戸を開け放して2室をつなげ、さらにはリビングとの間の引き戸もオープンにして、フロア全体をワンルーム的に使用しています。
「朝も夜も家族が一緒。今はベッドルーム代わりに子ども室に布団を敷いて、4人で川の字になって寝ています」と奥さま。先ほど見た中2階の主寝室は、現在はユーティリティー的な出番が多くなっています。

 キッチンは作業性重視で最近主流の対面式ではありませんが、横からひょいと顔を出せば、リビング全体を一望できます。また玄関とは別に、内階段の途中に1階親世帯と行き来できる隠し扉があり、両世帯の交流も活発です。親子孫3世代での団らん風景は、Mさん宅の日常になっています。
「屋上も大のお気に入りです。入居直後から積極的に活用しており、家族でバーベキューをしたり、夕涼みをしたりと大活躍です。これからはDIYを重ねて、より充実した遊び場にしていきたいですね」とご主人。間近に迫った夏シーズンに向けて果たしてどこまでパワーアップできるのか、楽しみは広がります。

写真ギャラリー

天空からの光が切り込んだ スキップ構造の2世帯住宅

高低差のある敷地条件に合わせた断面計画
機能・用途を兼用し、空間資源を最大限に生かす


住宅密集地でも明るさを確保。階段ホールをガラス張りにして光と風を招く
区切りすぎず、各スペースのつながりを意識したレイアウト

一級建築士:前田慎さん

 個性的でちょっとインパクトのあるMさん宅の外観デザインは、敷地条件と空間・予算の制約の中から半ば必然的に生まれたものです。

 計画地は周囲に建物がひしめく住宅街にあり、造成前は前面道路との間に1メートル前後の高低差がありました。1階を親世帯、2階を子世帯にすることは当初から決まっており、駐車スペースは4台分必要とのこと。露天より屋根付きがいいのは当然の話で、それならばガレージやカーポートを新たにつくるより、敷地を掘り下げた分を埋め合わせるようにして中2階の部屋を設け、駐車場の屋根を兼用してはどうかと提案しました。
 柱要らずの片持ちで設計すれば、使い勝手も見栄えも良く、余分なコストまでも圧縮できます。建物全体のバランスを見ても、前面道路・片持ちの中2階・躯体頂部を結ぶなだらかなラインが生まれ、冗長さを感じないメリハリのあるフォルムになったのではないかと思います。

 一方で2階Mさん世帯のプランニングでは、周囲に開くのが困難な環境下で、プライバシーを確保しながら、いかに光や風通し、空間の広がりを獲得するかがポイントになりました。解決策としてはコートハウス的な手法を採用し、屋上へ続く階段を集光装置に見立てて、内階段から連続するようにして外壁のすぐ内側に配置。さらには内階段の両サイドの壁面をすべてガラス張りにして、上空から降り注ぐ光を存分に室内に取り込みました。部屋の内側からはガラス越しに視線がよく通るので、実際の数字以上の開放感を得られる視覚効果も期待できます。 
 また外部環境との距離が縮まるほど耐久面でのリスクは高まりますが、生活に支障が生じないようにしっかりとケアを施しています(「家づくりのヒント」参照)。

 間取りはキッチン・リビング・小上がりの畳間・子ども室の4スペースで構成しつつ、フロア全体の一体感を重視して仕切りは最小限に抑えました。例えば子ども室の入り口は、開き戸ではなく3枚の引き戸にして、有効開口幅を確保。独立型のキッチンも、リビングにいる家族と容易に顔を合わせられる位置関係に置くことで、どこにいてもお互いの気配を感じられるように設計しています。

設計・施工会社

那覇市首里平良町1-29-8 ライオンズマンション首里102

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