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こんな家に住みたい

スリムなボディーに濃密な時間。家族の「今」を包むコートハウス

スリムなボディーに濃密な時間。家族の「今」を包むコートハウス

DATA
設  計: 松島デザイン事務所
     (担当/松島良貴)
敷地面積: 189.03㎡(約57.1坪)
建築面積: 90.86㎡(約27.48坪)
延床面積: 149.32㎡(約45.16坪)
用途地域: 第一種低層住居専用地域
構  造: 鉄筋コンクリート造2階建て
完成時期: 2022年7月
施  工: 松島デザイン事務所
電  気: 松島電気工事
水  道: 泉水設備
型  枠: 松島デザイン事務所

家族一人一人の専用スペースを設けながらも、気付けば7人全員がリビングに集合。
白くてスリムな形状をしたSさん宅は、自分の時間と家族の時間をどちらも大切にできる仕掛けを内包した、大人楽しいコートハウスです。

週刊かふう2023年7月28日号に掲載された内容です。

スリムなボディーに濃密な時間。家族の「今」を包むコートハウス

ライフステージが進んでから家族のための家を建てる

 Sさんご夫妻には10代、20代の社会人の子どもが4人。子育てを念頭に置いた家づくりとは若干ニュアンスが異なり、ライフステージが一段階進んでから建てたマイホームには、独特の魅力や面白さが詰まっています。新築直後から、親子ともどもに同じ大人の目線に立って”今”の生活を楽しむことができ、誰かが独立して家を離れる未来に現実味が感じられるからこそ、”今”を慈しむ気持ちがより強く芽生えてきます。

「4人分の個室を用意したけれど、家族全員でリビングで過ごす時間は以前のアパートより増えたくらい。ソファでそのまま寝る子もいますからね」とご主人。
 リビングは4・5メートル四方の正方形の空間で、全面ガラス張りの窓の外には同じサイズのコート(中庭)が併設しています。青空から届いた光が真っ白なコートにはじける中、奥さまは続けて、「生活時間はバラバラなのに、気が付くと、あれ、全員いる、みたいな日がよくあります。先日は上の子が、自分の部屋だと落ち着き過ぎてすぐ眠くなるからといって、皆がテレビを見ている横でPCを広げて仕事をしていました」。築後まだ1年にもかかわらず、家族にまつわるエピソードが盛りだくさんです。

 新居に移る前までは、目と鼻の先にあるアパートで暮らしていました。ファミリー向けの3LDKの部屋とはいえ、ご紹介している通りの大人数のため年々手狭になり、借家かより広い物件への転居を模索。そんな折に、現在の土地が売り出されているのを発見し、「ここに家を建てられれば、誰一人として通勤・通学への影響はなく、今まで通りの生活を送ることができる」と考え、信頼を寄せていた旧知の建築家に相談しました。以降は転居計画を取りやめて家づくりに一本化し、親子6人に奥さまの母親を加えた7人住まいの新居を築くことになりました。

スリムなボディーに濃密な時間。家族の「今」を包むコートハウス

新築後は子どもたちが主導して家具やインテリアをセレクト

 Sさん宅は南北に細長い形状をしたRC造の2階建て。7人全員が仕事を持った成人のため、「部屋も駐車場も一人一つずつ」との要望をかなえてもらい、特に駐車区画を並列にしたことで、躯体のボディーは一段とスリムさを増しました。
 居住空間をぐるりと外壁で覆い、囲まれた一角に中庭を置く「コートハウス」にすることは、建築家・ご夫妻ともに当初からの共通した意向でした。周囲は人通りの多い住宅街のため、必要な光と風を上空から取り込むようにすれば、外からの視線を一切気にせずのびのびと過ごすことができます。結果的には1階端の南面と、2階中央の浴室隣にある干し場兼用のスペースがコートになりました。

 間取りは1階にLDKと奥さまの母親の個室があり、2階にはご夫妻の主寝室と子ども室4室が横並びに置かれています。このうち主寝室は1階コートに面した位置にあり、「窓の外に目をやれば、外壁に切り取られた空がポッカリと見える。夜は月見にも最適ですよ」。2階を南北に縦貫する「クローゼットコリドー(廊下)」も圧巻で、通路沿いの壁面全体が家族共用のオープン収納になっています。またサニタリーは1、2階それぞれに用意されており、朝晩の忙しい時間に渋滞することはありません。

 子どもたちにとっては、成人して初めての念願の個室。とはいえ家づくりに際し、口を挟むことはめったになく、「白をベースにした明るい家にしたい、といったことくらいでしょうか」とご夫妻。むしろ住み始めてから活発に意見するようになり、「それぞれに好みのアイテムを買いそろえて、自分の部屋でコーディネートを楽しんでいるようですよ。リビングで新調した家具も、ほとんど子どもたちがセレクトしたものです」。今時のセンスが映えて、今だからこそ楽しめる、いとおしい毎日です。

写真ギャラリー

スリムなボディーに濃密な時間。家族の「今」を包むコートハウス

無意識裏に五感に作用する、住み手が安らぎ、元気づく住宅を

「今」と「将来」の生活の変化を見据えた、眺望計画と間取りの設計
安全安心な暮らしを永年担保する、プライドをかけた施工品質

代表:松島良貴さん

 設計の質は、住み手に対する理解の深度によって大きく変わってきます。本当にいい家をつくるには、表層的な要望をなぞるだけではなく、表出された言葉のニュアンスや背景、ひいては相手の人柄・生活観・人生観と誠実に向き合い、自分なりに咀嚼(そしゃく)して、敷地条件などの周辺情報と統合しながらプランを創造する必要があります。
 今回のSさん宅では、ご夫妻が歩んできた道のりや育んできた家庭の姿、やがて訪れるだろう将来像を強く思い描きながらプランニングを進めました。

 例えばプライベートな2階の構成について、用途だけを見れば五つの個室の集まりですが、一人一人の時間を大切にしつつ、将来にわたって家族間のつながりを感じるフロアにはどうすればいいか。
 機能的にはまず、廊下全体を共用のクローゼットにして空間の有効活用を図った上で、南北両端に採光・換気用の窓を配置し、明るく爽やかな雰囲気を創出。個室の並べ方にも気を配り、主寝室はメインコートに面した位置に置き、横長の窓の外に空を仰ぎ見られるように計画しました。
 力強い光に満ちた南方の空は、忙しい今の毎日の中で一服の安らぎを生み、たとえ子どもたちが将来独立していったとしても、お二人を元気づけてくれるでしょう。残りの四つの子ども室は、家族構成の変化に柔軟に対応できるように、隣り合う2室間の壁を撤去して二つの個室に仕様変更できるようにしています。

 建物の造形については、南北に細長い敷地形状と「人数分の駐車場を並列で」との要望を受け、西面に突き出た横長のコンクリート壁が特徴的なスリムなデザインになりました。計画地は平たんで間口が広く、採光・通風も良好な南西角地。周囲は人通りの多い住宅密集地のため、プライバシーに配慮して最初からコートハウスで計画しました。
 また「平面計画上は基準グリッドの反復により、単純な自己相似の空間構成を形作ることができれば、無意識のうちに静謐(せいひつ)な安心感を得られる」との考えに基づき、今回は4・5メートル四方の正方形を基準グリッドに設定。団らんの場であるリビングやメインコートはこの基準グリッド通りのサイズであり、躯体の長さは基準の4倍、2階個室は2分の1倍、といった具合に間取りを組み立てていきました。

 内外装は白で統一し、外壁は雨垂れの汚れが目立たないようにするなど、場所ごとに施工方法を調整。塗装前にはSさんにお願いして、水分量が少なく耐久性の高いコンクリートの躯体品質を直接確かめてもらいました。またフローリングには、軟らかい無塗装の杉材をあえて提案。素肌に優しく、経年とともにできた傷は家族全員の思い出になるでしょう。

設計・施工会社

中城村字南上原817 南上原ハイツ(B棟)

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