琉球古民家を現代の技術で再構築 「The three roof house」
- DATA
- 設 計: 株式会社ADeR
- 敷地面積: 753.00㎡(227.8坪)
- 建築面積: 318.00㎡(96.2坪)
- 延床面積: 285.93㎡(86.5坪)
- 構 造: 鉄筋コンクリート造
- 完成時期: 2021年3月
イタリアの国際デザインコンペ「A’ Design Award(エーダッシュデザイン アワード)2023-2024」の審査結果が発表され、一級建築士事務所|株式会社ADeR(アデル、本社・豊見城市)が設計監理した住宅「The three roof house」がシルバー賞に選ばれました。
「沖縄建築の系譜の延長線上にある今回の作品が、世界で認められた意義は大きい」という同社代表の仲本昌司さんの談話をもとに、住宅建築とデザイン・地域性の関係について考えます。
写真提供:一級建築士事務所 株式会社ADeR
週刊かふう2024年7月19日号に掲載された内容です。
石造建築の中心地で沖縄のRC造住宅が認められた意義
エーダッシュデザイン・アワードは、2010年にイタリアで創設された世界最大規模の国際デザインコンペです。建築をはじめ家具、プロダクト、ファッション、グラフィック、サービスなど100以上の異なるデザイン部門が設けられ、毎年100を超える国や地域から1万点以上の応募が集まります。賞にはプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアンの5つのランクがあり、一級建築士事務所ADeRの「The three roof house」が選出されたのは上位5%に贈られる「シルバー」です。
今回の受賞を受けて仲本さんは、「高度な石工技術と芸術センスが古代から脈々と培われてきた場所で、沖縄特有のRC造住宅が高く評価されたことは大きな自信につながります」とコメント。世界に数あるデザイン賞の中でイタリアに応募した背景には、「コンクリート打ち放しが基調で石のような表情をしたこの作品が、石造建築の中心地でどこまでやれるのか試したかった」との思いがあったといいます。
本住宅の受賞歴はこれで、グッドデザイン賞、JCD沖縄空間デザイン賞に次いで3回目。いわば沖縄、日本国内、そして海外という複数のエリアを横断して、その秀逸なデザイン性が広く認められたことになります。
居室ごとに異なる光環境と4メートルの無柱空間
「The three roof house」は名前の通り、3枚の屋根を持つ平屋のRC造住宅です。リビング・ダイニングをはじめ南側居室の頭上には大きな勾配屋根が架かり、庭先に延びた長い庇が豊かな雨端空間を形成しています。他の2枚はフラットな陸屋根で、勾配屋根とは反対の北側に向かって段違いに設置されており、3層の屋根の間隙がハイサイドライトになっています。
設計の大きな趣旨は「琉球古民家の再構築。屋根の形態を操作することで、現代のライフスタイルに適した居住空間の創造を試みました」。敷地南側からの採光・日射遮へいに優れている反面、家の奥まで光が届きにくいといった古民家の課題を、2つのハイサイドライトによって解決。北側の穏やかな明かりを室内に取り込み、居室ごとに趣の異なる複層的な光環境を実現しました。
構造面もポイントです。勾配屋根を支える柱はわずか4本のみ。特に雨端部分には、4メートルもの長さのある庇が柱の支えもなく突き出ており、内外を緩やかにつなぐスケールの大きな空間になっています。視界に入る柱が少ないため抜け感にも優れ、開放的な雰囲気を一段と高めています。
原風景として記憶に残る地域のシンボル的住宅に
世界各地にはさまざまな家があります。その土地の気候風土によって快適さをかなえる手段・方法は異なり、多様なデザインや建築材料が編み出されてきました。沖縄もまたしかり。The three roof houseのベースにあるのも琉球古民家であり、そこに戦後培われたRC造の知見と現代の構造技術をプラスして実現した住宅です。
「沖縄建築の系譜の延長線上にある今回の作品が、世界で認められた意義は大きい。トレンドを追う以前に、私たちの足もとにあるものをいま一度見つめ直し、地道に掘り起こす作業が大切であることを再認識しました」。
住宅は個人の資産であると同時に、町の風景を形作るものです。仲本さんは「周辺に住む人々にとって、この先何十年たっても地域の記憶を喚起できる原風景になれば」と期待を寄せるとともに、「多くの建築関係者にとって、今回の私たちの受賞が、これからの設計活動における指針の一つになればうれしいですね」と話しています。
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設計・施工会社
一級建築士事務所 株式会社ADeR
TEL:098-800-1869 | https://aderarchitects.com/