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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

亜熱帯の力強い自然と戯れる 生き心地に優れた離島の家

亜熱帯の力強い自然と戯れる 生き心地に優れた離島の家

DATA
設 計: 株式会社クレールアーキラボ
     (担当/畠山武史)
敷地面積: 1150.55㎡(約348.04坪)
建築面積: 137.30㎡(約41.53坪)
延床面積: 138.75㎡(約41.97坪)
用途地域: 未指定
構  造: 壁式鉄筋コンクリート造
完成時期: 2023年5月
建  築: 株式会社 古波蔵組
電  気: 東光電気 株式会社
水  道: 有限会社 松宮開発
キッチン: 株式会社 クレールアーキラボ
エクステリア: KISETSU×HIFUMI

より南国色が濃い自然とおおらかな時の流れを求めて、沖縄本島から南西へ約320km離れた宮古島へ。
今回の家づくりの舞台は、太陽との距離が近く、光・風の移ろいや動植物の息づかいを素肌で感じられる場所。
敷地内の植生を保存・活用し、自然との共生を見事に実現したNさん宅は、蒸暑地の住まいのあり方を考える上で多くの示唆に富んでいます。

週刊かふう2024年10月11日号に掲載された内容です。

亜熱帯の力強い自然と戯れる 生き心地に優れた離島の家

既存植物のほとばしる生命力を間近に感じる住宅デザイン

 LDKの目の前に群生する木々は野生そのもの。ソテツ、リュウキュウマツ、ガジュマル、ブーゲンビリア。地中深く根を下ろし、のびのびと枝葉を広げ、みなぎる生命力を敷地全体に拡散しています。
「この家で暮らし始めてから、生きた心地を強く実感するようになりました」と話すご夫妻。
 リビング側・ダイニング側それぞれのテラスを介して屋内外は緩やかに連続しており、建物内のどこにいても、風にそよぐ葉の音や鳥のさえずり、天気の移り変わりがダイレクトに感じられます。境界を意識することなく自由に移動もできるため、念願だった愛犬たちと戯れる生活が実現し、新居の満足度アップに大きく貢献しています。

 Nさんご夫妻は4年前に転勤で宮古島へ赴任しました。温暖な気候や美しい自然が気に入り、「定住地としてマイホームを構えよう」と決意して家づくりをスタート。当初は漠然と「海の見える暮らし」に憧れていましたが、多様で豊かな植生を持つ現在の土地に魅了され、「昔から自生しているものなのか、以前の土地の所有者が持ち込んだのか、さまざまな樹齢の植物が同じ場所に混在している。これだけの環境を生かし切ってくれる建築家はいるだろうか」と探し続けた先に、依頼した設計事務所と出会いました。

「既存の植物にはできる限り手を付けないようにして、建物をプランニングしたい」。Nさんと建築士の見解は一致していました。だから最も存在感のあるソテツとリュウキュウマツを中心に、LDKと個室群、離れが並んだ配置計画は、まさにイメージ通りで期待通り。躯体は頑丈で粗なコンクリート打ち放しにして、周囲の自然に溶け込むような雰囲気に仕上げました。

亜熱帯の力強い自然と戯れる 生き心地に優れた離島の家

島の豊かな自然を感じる心身の充実した毎日

 敷地の広さは約350坪。昨年8月の新築以降、エクステリアはすべてNさん自ら整備しており、休みの日に1日がかりで作業することもしばしば。今ではそれがご主人の趣味の一環となり、「もともと植栽を触ることが好きだったので。子ども時分に実家で庭仕事を手伝ったことを思い出しますね」。

 LDKは間仕切りのないワンルーム的な空間構成です。リビングとDKとの間には段差を利用したソファが設けられ、テラス越しの正面にソテツとリュウキュウマツが見えるように設計されています。一方でダイニング側の窓からは、敷地内だけではなく周辺地域の緑も眺められ、奥さまは「リビングとは異なる落ち着いた趣があって好き。天気がいい日はテラスにテーブルを置いて、朝食を取ることもあります」。

 個室はリビングからフリースペースを挟んだ場所にあり、現在は1階をゲストルーム、2階を寝室として利用しています。窓の外にはリビングと同じ景色を別角度から望み、さらに階段を上って屋上に出れば、視界360度のアイランドビューが楽しめます。
「屋上は夕涼みにも最適な場所。何もかもが格別ですね」とご夫妻。続けて奥さまは「今の夫の様子を見ていると、以前に増して目に輝きが生まれ、表情も明るく穏やかになったように感じます」と目を細めます。
 植物・自然には人の心を癒やす力があり、生活にリズムを与えてくれる、とよく言われます。今回のNさんの暮らしぶりは、建築のあり方によって、その力を何倍にも増幅できることを物語っています。

写真ギャラリー

亜熱帯の力強い自然と戯れる 生き心地に優れた離島の家

植生に歴史あり。歴史の上に今がある。土地に刻まれた時代の積層を「継承する家」

既存植物をできる限り残し、シンボル的なソテツ・リュウキュウマツを中心にした配置計画
敷地周辺の自然ともよくなじみ、経年とともに味わいを増すコンクリート建築

一級建築士:畠山武史

 最近は依頼を受けるたび、50年後、100年後にこの建物はどんな姿になり、どんな使われ方をされるだろうと想像しながら設計をすることが多くなりました。
 基本的にRC造建築は、耐久性に優れているため人の手を離れても、好む好まざるに関わらず、風景の一部として残り続けます。したがって今回のように植生豊かな環境で計画する場合には、既存植物には極力手を加えず、土地の歴史を尊重・継承し、経年とともに周囲の自然と同化していくような建築にしたいと考えます。既存植物の一部を切り取り、建築と対峙した独立した庭をつくるのではなく、建築と自然が混然一体となった家にしたい。Nさん宅はそんな住宅像を目指しました。

 計画地は宮古島南部の古い住宅街にあり、多種多様な南国植物が混在し、敷地全体に雑然と茂っていました。原生林ではなく、人の手が入った形跡があったため、植歴も広範囲にわたるものと思われます。時代の変遷とともに自生した植物と植樹されたものが折り重なって現在の植生を形成し、それがこの土地の大きな魅力になっていました。
 Nさんも同じ視点・感覚を持って定住地に選んだことが理解できたので、まずは既存の植物の位置を丁寧に記録して、最大限に保存・活用できるようなプランを提案しました。具体的には、最も存在感のあるソテツとリュウキュウマツを中核に据え、各居室からの見え方を計算しながら、LDK・個室・離れを周囲に配置。中でも生活の中心であるLDKは、リビングからテラスへつながる床・壁・天井のラインをフラットに延ばし、視線がスムーズに屋外へ流れるように開口を計画することで、敷地との一体感を高めました。仕上げもテラスと室内で材料をそろえ、内外の境界を曖昧にしています。

 建築的に過度に主張せず、歳月を重ねながら味わいを増して島の自然になじむように、内外装はともに彩度を落とした素朴なコンクリート打ち放しを採用。各居室のボリュームも、敷地内に群生する既存植物とのバランスを考慮して調整しました。またダイニング側の窓からは、周囲に広がる緑深い景観を借景として取り込んでおり、宮古島の風土を身近に感じられるようにしています。

設計・施工会社

株式会社クレールアーキラボ

TEL:098-955-1823http://www.clairarchilab.com

TEL:098-955-1823http://www.clairarchilab.com

うるま市石川曙1-10-20

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