花ブロックで光を操る 都市リゾートの趣に包まれた家
- DATA
- 設 計: 有限会社門一級建築士事務所
(担当/金城豊・大城壮史) - 敷地面積: 293.02㎡(約88.63坪)
- 建築面積: 142.64㎡(約43.14坪)
- 延床面積: 209.05㎡(約63.23坪)
- 用途地域: 第一種低層住居専用地域
- 構 造: 鉄筋コンクリート壁式構造
- 完成時期: 2023年5月
- 建 築: エクラホーム 株式会社
(担当/松原清幸) - 電 気: 中村電設
(担当/中村三智雄) - 水 道: 石橋工業 株式会社
(担当/福里浩明) - キッチン: 株式会社 MOV
(担当/玉那覇敦子)
コートハウスの手法を採用して、住宅街でも外部の視線を気にせず開放的に。
親子3人が暮らすAさん宅では、「自分で自分をもてなせる」空間を目指して内外装をコーディネートし、コート(中庭)の外壁には花ブロックを活用。
毎日の暮らしの中に贅(ぜい)とリゾートの風を感じる、ホテルライクな住まいができあがりました。
週刊かふう2024年10月18日号に掲載された内容です。
水盤やガレージで室内に景色を創出
目指した方向は終始一貫、「ホテルライクなコートハウス」。生活感を表に出さず、都会的なリゾートスタイルを追求し、「日常の中に非日常を取り込んだような、自分で自分をもてなせる家にしたかったんです」とご夫妻は振り返ります。
奥さまが親類から預かった土地の広さは約88坪。区画整理された住宅街にあり、プライバシーを確保しつつ十分な明るさと開放感を得るには、外壁に囲まれたコート(中庭)を宅内に置いた「外に閉じて中に開く」手法が最適でした。依頼先は「作風が私たちの好みと一致している」設計事務所を第一候補と考え、4年ほど前に計画開始。最終的には期待通りのデザイン性もさることながら、「西側隣地との境界に擁壁があり、ギリギリのラインまで建物を寄せるのが難しかったところ、コートテラスを上手に使って解決してくれた」ことが決め手になりました。
新居は2階建てにしてフロアごとに用途を切り分け、プライベートな主寝室・子ども室・水回りなどは2階にまとめ、1階には吹き抜けになったリビングを中心にパブリックな居室を並べました。その中でキッチンは、「料理中は集中したいから」との奥さまの要望を受け、ダイニングの隣に独立したスペースを確保。和室は行事の際に親類が出入りしやすいように、玄関から直接行き来できる別ルートを設けました。
主要採光装置であるコートテラスは、リビング・ダイニングの西側に併設し、外壁材として有孔の花ブロックを採用。頭上だけではなく水平面からも光と風が舞い込み、壁際でせせらぐ水盤や、水盤から2階へ伸びる階段などと一体になって、屋外の雰囲気を室内へ届けてくれます。
「コートハウスは閉じた環境になりがちなので、家の中に景色をつくりたかったんです」と奥さま。ガレージも同様の趣旨で設計されており、リビング・キッチンに面した戸はすべてガラス張りのため、愛車がインテリアの一部になります。いわば駐車場というより、室内の広場や庭といったイメージです。
設計・デザインの先に毎日の暮らしがある
デザインは細部に宿る。1階は基調色の白を生かした上質感あふれる装いで、床には全面的にマットな質感のタイルを施工。窓を縁取るブラックサッシが空間を引き締め、家具や造作収納、観葉植物の存在がアクセントとなってくつろぎ深い印象を高めています。
「ノイズになる要素は取り除き、できるだけシンプルで開放的に。華やかさや豪華さよりも、落ち着いた大人のリゾート感を目指しました」とご主人。一方で2階は、廊下と居室の床材にナチュラルな色合いのフローリングを選び、1階とは趣の異なる温かみある雰囲気に仕上げています。
空間のボリューム感もAさん宅の大きな特徴です。特に1階のリビング回りのスペースは、天井高に差を付けたり、視線の抜け方に変化を加えたりしながら、全体的なつながりは確保。吹き抜けのコート面は、真下にある4枚折れ戸と縦桟のラインをそろえて天井いっぱいまでガラス張りにし、コートと同じ花ブロックで目隠しすることで、上下・内外の連続性を演出しています。またコートの反対側を振り向けば、2階廊下のスタディーコーナーが目に入り、家族と上下階で顔を合わせて会話できます。
「デザイン面で当初考えていたことは、おかげさまで大方成功したかな、と思っています」とご夫妻。住み始めて1年が過ぎ、今改めて感じるのは、「デザインの先に、私たちが暮らしやすい設計がきちんと施されていること。何をするにもストレスがなく、意識が引っ掛かることがほとんどありません」。
日が暮れてコートの水盤の照明をともせば、花ブロックや階段が幻想的に浮かび上がります。子どもが寝静まった頃、2人でダイニングに腰掛け、お酒を傾けることもしばしば。お互いを、自分自身を最高にもてなせるリゾートフルなひとときです。
写真ギャラリー
動線に沿って空間の見え方を緻密に設定し、ホテルライクな雰囲気を最大限に表現する
両面で光の抜け方が異なる花ブロックの形状を生かし、抜け感のあるコートを実現
室内の回遊性・連続性と併せて、周辺環境との関係性も考える
有限会社 門一級建築士事務所
建築用語でシークエンスとは、移動するにつれて景色が変化していくことを表します。例えば玄関を上がってリビングに入るまで、あるいは起床後に寝室からバスルームに向かうまで、一連の生活動線の中でどのような視覚体験をするかを考えることは、住宅の質や居住性を高める上でとても重要です。今回のAさん宅の場合、全体的な部屋の構成は最初の提案時からあまり変わっていませんが、シークエンスは一変しました。その後に見せていただいたお二人のイメージストックが私たちのプランと乖離(かいり)していたため、家の中を歩き回るようにして、一つ一つポイントごとに空間の見え方を調整していきました。
コートハウスの手法自体は、私たちの事務所でも都市部や密集地で数多く手がけています。今回の計画地は、用途地域で定められた西側隣地からのセットバックラインが擁壁の中央にあり、建築可能面積を最大限に活用することは困難でした。また西面は日射対策を考える必要もあることから、コートテラスを擁壁上にせり出すように配置することで、敷地と西日の問題を同時に解決。外壁には風と光を適度に通す花ブロックを採用しました。
花ブロックの柄にはさまざまな種類がありますが、両面で開口形状が異なる場合、通常は穴の周囲が斜めに面取りされている側を意匠面として、つまり外構であれば通りに面して設置します。しかし以前に表裏反対の施工例を見て、裏面は表面ほど視線が抜けない、視界が定まらないと感じました。したがってAさん宅でも、意匠面を室内側に向けて積み上げることで、外部からの目隠しにするとともに花ブロックのデザインを楽しめるようにしています。
一方で周辺地域に対しては、風景の一部として町並みを形成し、緩やかな関係性が生まれることを期待しました。
プラン面では、ガレージやコートを含めて空間全体の連続性を保ちながら、LDKを中心に他のスペースをレイアウト。玄関から和室へは別動線を用意していますが、リビングの2方向から行き来できるように回遊性を持たせています。上下階のつながりにも気を配り、吹き抜けに面してスタディーコーナーを設けたのは、1階から子ども室に行くまでの間に必ず階下の家族と顔を合わせるようにと考えてのこと。その窓際には、座って子どもに読み聞かせなどができるヌックスペースを設け、2階の滞留時間が長くなっても気配が伝わる距離感を確保しています。
設計・施工会社
門(じょう)一級建築士事務所
TEL:098-888-2401 | http://www.jo1q.com/