ホテルライクな空間が毎日を上質に彩る 2つのスキップ風スペースを持つ家
- DATA
- 設 計: 間+impression
(担当/儀間徹・儀間達紀) - 敷地面積: 272.04㎡(約82.29坪)
- 建築面積: 151.47㎡(約45.81坪)
- 延床面積: 138.98㎡(約42.04坪)
- 用途地域: 第一種住居専用地域
- 構 造: 鉄筋コンクリート造
- 完成時期: 2024年10月
- 構 造: 建築設計庵
(担当/長間大輔) - 施 工: 有限会社 匠建
(担当/安里成邦・前里清秀) - 電 気: 有限会社 照電社
(担当/盛根親広) - 水 道: 泉水設備 株式会社
(担当/池間美和) - キッチン: 有限会社 ファイン
(担当/比嘉美奈子)
路地が入り組んだ密集地に、夫婦と子ども2人のための新居を構えたNさん。
敷地高低差を生かして駐車場の上に主寝室を配置し、子ども室の床下を大収納スペースとして活用。
2層で構成された空間は開放的でゆとりがあり、ホテルライクなインテリアが暮らしの質を高めてくれます。
週刊かふう2024年12月20日号に掲載された内容です。
勾配天井で開放感を演出。キッチンが引き立つLDK
町の喧騒から切り離された家の中は、上質感漂う別世界。フルオープンのアイランドキッチン、L形のカウチソファが映えるリビング、西側テラスに面して大開口を広げたダイニング。窓の外に夕闇が迫り、照明のスイッチを入れると光の陰影が深まって、ムードが一段と高まります。「非日常感があってくつろげる、ホテルライクな家にしたかったんです」。
Nさん宅を構成するベースカラーは、グレージュ、ウッディ、オフホワイトの3系色。床に敷き詰めたタイルはマットな風合いで落ち着いた趣があり、建具や収納は重厚感があって木目が美しいウォールナットで造作しました。
壁と天井は白でまとめ、表面に凹凸のある吹き抜け塗装にすることで、明るくシンプルかつやわらかい雰囲気に仕上がっています。
LDKは間仕切りのないワンルーム的な空間です。ご夫妻と談笑するダイニングから室内を見渡すと、対面にある子ども室や和室まで目が届き、勾配天井の効果もあって吹き抜けのようなボリュームが感じられます。「家族で過ごすスペースはできるだけ広く」という大前提の下、キッチンは「近い将来、料理教室を開けるように」という奥さまの要望を踏まえ、ワークトップをはじめ収納や作業スペースまでゆったりとデザイン。インテリアとしても存在感を放ち、毎日の暮らしを引き立ててくれます。
新居が完成したのは今年10月。土地はもともと親類が所有していたもので、公私の生活が落ち着き本腰を入れて家づくりを始めた3年ほど前に、タイミングよく使えることになりました。先んじて住宅紙などを見て情報収集は進めていたため、依頼先の選定はスムーズ。「作風が好み」と感じていた建築士事務所を訪問して、自分たちの見立てが正しかったことを再確認しました。
床レベルの違いがもたらす心地良い適度な距離感
Nさんが建築士事務所を選んだ理由はもう一つ、「空間の立体的な使い方が上手」なことがありました。一つのフロアの中に床下収納やロフトを巧みに組み合わせ、収納力アップと併せて家族の距離感や動線をデザインする手法は「家づくりの良いお手本。わが家でもぜひ取り入れたいと考えていました」。
実際にNさん宅では、床面積に含まれない法基準を満たした大収納スペースを、子ども室の真下に配置しました。平面的には、子ども室とキッチン・リビングは隣り合わせの位置にありますが、立体的に見れば床レベルが異なるため、つかず離れずの程よい距離感が生まれています。
「子ども室のドアを閉めていても、声を掛ければすぐにコンタクトが取れる。階段もいい居場所になっており、ステップに腰掛けておしゃべりすることがよくありますね」。
ダイニングの横にある主寝室とご主人の書斎も、階段で行き来します。断面上は駐車場の真上にあたり、敷地高低差の解決策として建築士から提案されました。構造上は子ども室が1階、主寝室は2階になりますが、床レベル自体は同じ位置にあって1階との距離が近く、スキップフロア感覚で利用できます。
住み心地を左右する家事動線は、家の北側に直線上に用意されています。ランドリールームとウォークインクローゼットが水回りと横並びにレイアウトされており、洗濯・乾燥・収納といった作業が一気に完結。キッチンの左右両サイドから回り込めるため、使い勝手は抜群です。
「子ども室の下の大収納は引っ越しの時から大活躍。常に家族の気配が感じられるし、日中の明るさも予想以上でした。あとはお気に入りの植栽が順調に育ってくれれば」。新しい暮らしの始まりとともに、日に日に愛着が深まっています。
写真ギャラリー
敷地の傾斜に沿った空間計画と家族の暮らし方に沿った照明計画
縦横に視線が広がる開放感。ワンフロアの床面に段差をつくり、空間を立体的に活用
必要な場所に必要な光を届ける。自然光を取り込みながら、照明器具・方法をセレクト
一級建築士:儀間 徹さん(左)、儀間達紀さん
Nさん宅のプランニングは高低差の克服から始まりました。計画地は東西に緩やかな傾斜があり、さらに西側隣地は2m以上落ちた位置にあるため、土砂が崩れないように土留めが必須。おのずと西側境界に擁壁を整備して駐車場を置くという方向性が定まり、その上で平面・断面計画を考えることになりました。
居住スペースのプランニングでは、開口計画に腐心しました。四方に建物がひしめく密集地で、外部の視線を気にせず過ごせるのは、傾斜に沿って視界が広がる西側のみ。西日のケアは当然必須となり、ダイニングに並べた掃き出し窓の外にはテラスに面して深い庇を延ばし、開放感と日射対策の両立を図りました。またダイニングとは対極の位置にあるリビング・キッチンにも自然光が届くように、トップライトを施工して明るさを補いました。
キッチン横の大収納スペースの上に子ども室を重ねてスキップフロアにしたように、同じ平面内に段差の異なる空間をつくることは、私たちの事務所ではよく採用している設計手法です。法律に定めによると、小屋裏や床下の余剰空間を収納として利用する場合、「天井高さ1.4m以下かつ同じフロアの床面積の2分の1未満」といった基準を満たせば、階数・床面積に算入されないことになっています。限られた面積の中で縦方向の変化に富んだ空間デザインが可能となり、実際の数字以上の開放感を演出できます。今回のNさん宅では、駐車場の上の2階部分に主寝室と書斎を置き、子ども室と床レベルをそろえることで、スキップ的なスペースを2つ創出しました。
照明計画では、ダウンライトにグレアレス照明を採用するなど、光の“質”にもこだわりました(「家づくりのヒント」参照)。室内での日常的な過ごし方を考えた場合、家全体を明るく照らす必要はなく、大切なのは、必要な場所に必要な明かりを用意することだと考えています。逆に光の濃淡があることで落ち着いた雰囲気が生まれ、毎日の暮らしを豊かにしてくれます。