緑深い山中にたたずむ コンクリートとガラスの家
- DATA
- 所在地:大宜味村
- 家族構成:夫婦
- 設計:松島デザイン事務所
(担当/松島良貴・新垣雄貴) - 敷地面積:330.67㎡(約100.20坪)
- 建築面積:81.99㎡(約24.80坪)
- 延床面積:67.98㎡(約20.56坪)
- 用途地域:無指定
- 構造:壁式鉄筋コンクリート造平屋建て
- 完成時期:2013年9月
- 建築:松島デザイン事務所
- 電気:松島電気工事(担当/松島良成)
- 水道:泉水設備株式会社(担当/新里紀章)
- キッチン:有限会社モブ(担当/照屋涼子)
やんばるの山中に建つMさん宅は、子どもが独立後に以前の家を建て替えた夫婦2人のための家。コンクリートとガラスで構成されたシンプルな正方形のデザインは、開放感と実用性を考え緻密にプランニングされています。
堅牢さを求めてコンクリートの家を選択
緑の木々の向こうに海を見渡す、山の上の小さな集落。風光明媚と秋霜烈日はコインの表と裏の関係で、コンクリートとガラスだけで構成されたMさん宅のフォルムは、豊かな眺望を楽しむためというより、周囲の自然に溶け込みつつ毅然とした態度を保ち、日照りや風雨の厳しさにも耐えて共存しようとする強い意思を感じさせます。
「開放感あふれる日中はもちろん、幻想的な夜の雰囲気も気に入っています。真っ暗な山道を上って帰宅し、ガラス張りの窓から明かりがこぼれているのを見ると、心がポッと温まるような感覚に包まれますね」とご夫妻。子どもたちが独立した後に建て替えた、夫婦2人のための家。以前まではこの土地で20年以上、2階建ての木造住宅で暮らしていましたが、「台風で何度となく被害に遭い、板張りの外装材がすべて吹き飛ばされたこともあります。今度はより堅牢なコンクリート造にしようとオープンハウスを見て回り、作風と人柄にほれた建築家にお願いしました」。
したがってお2人が新居に求めたのは、とにかく丈夫で、メンテナンスの手間が極力省けること。さらに何をするにも効率的に動き回れるように、コンパクトな平屋にすることも要望しました。個室は寝室とゲストルームだけを用意し、水回りも最低限の広さで十分。建築家から最初に示されたプランは、周囲の自然の影響から毎日の生活を守ることを重視したコートハウスでしたが、「本人もいまひとつピンとこなかった様子」で、時間をおいて次に提案されたのが10m四方のコンクリートの屋根と床の間にガラス張りの住居スペースをサンドしたような現在の家の形態でした。
シンプルな空間にインテリアと暮らしが映える
リビングダイニングを全面ガラス張りにした大胆で開放的なデザイン。にもかかわらず大きな安心感を得られるのは、第一に、窓の外には内部と外部を緩やかにつなぐ、中間領域としてのテラスが広がっているからでしょう。コンクリートの深い庇が幾本もの柱に支えられている外観は、まるで伝統的な沖縄家屋の雨端空間のようです。
次に、正方形をしたシンプルなプランの中で、公私のスペースがきっちりゾーニングされていることも大きな理由です。海側の視界が開けた方向には大きくリビングダイニングが置かれているのに対し、個室や水回りなどがまとまっているのはその対極。プライベートゾーンの仲間にはキッチンも加わり、だからこそ余計に、キッチンからリビング側を眺めたときの開放感が際立ちます。そして躯体に使われているコンクリートは、一般住宅と比べて堅く耐久性に富み、「まずはとにかく丈夫な家を」とのMさんの要望に応えています。
建築家からのこうした提案に賛同し、建築して住み始めてはや6年半。以前とは趣の異なる住宅スタイルにもすぐに慣れ、「建築中は国道沿いの借家住まいで騒音に悩まされていたため、完成が待ち遠しくて。今は家のどこにいても周囲の自然が身近に感じられ、改めて静かで落ち着いた環境のよさを実感しています」。
内装は無機的でスタイリッシュ。コンクリートとガラスに加えて、床を石張りに、キッチンをコンクリートとステンレスで造作したホワイトベースの空間に、リビングの薪ストーブがインテリアとしても映えています。「冬になるとこの辺りはかなり冷え込みますからね。設置して大正解でした」。訪れたゲストを温かく迎え、笑顔でもてなすMさんの人柄も住まいに映えています。