琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 黒色のトートーメーと赤色のトートーメー
週刊かふう2022年5月13日号に掲載された内容です。
黒色のトートーメーと赤色のトートーメー
Q:亡くなって 20年になる母は、黒色のトートーメー(一人用)に入っています。自称ユタのおばさんに「ほかの家のトートーメーと同じように、母も赤色のトートーメーにしてあげたい」と再三お願いするのですが、「それは絶対にダメ!」と強く注意されています。なぜ、おばさんはそこまでトートーメーの色にこだわるのでしょうか?(浦添市・Gさん・40代・女性)
A:沖縄のしきたりに関するおばさまの習熟度は図りかねますが、ご意見が理論に基づいたものであることを前提に、可能な範囲でご回答させていただきたいと思います。
《お位牌と過去帳》
故人さまの個人情報にあたる、法名(戒名)・俗名(氏名)・ご命日・数え年・続柄をご記入する方法は、木札(きふだ)を使用するお位牌(トートーメーも含む)と、帳面を使用する過去帳があります。
お位牌と過去帳の選択は、宗教・宗旨・宗派によるところが大きいといわれています。お位牌と過去帳は、ご供養を行う上で、心のよりどころとなるものですから、大小・デザイン・色彩などにより、上座・下座、優劣のつくものではありません。この点から考えますと、お母さまのトートーメーを黒色から赤色にしてあげたいというGさんのお気持ちは、いささかも問題ないということになります。
《イナグタチクチ(女性立口)とは》
ではなぜ、おばさまは、黒色のトートーメーにこだわられているのでしょうか? 仮説の域を超えませんが、もしかしたら、沖縄のしきたりの禁忌のうち、イナグタチクチにならないようご配慮されているのかもしれません。
このイナグタチクチとは、女性立口と書きます。トートーメーでは、男性が初代(立口)となることが望ましく、女性が初代とならないよう暗黙の了解があるといわれています。これは、沖縄のトートーメーが、故人さまをご供養するお位牌であることはもとより、その家庭の男性を中心とする家系図も同時に表していることに関連しています。
《イナグタチクチの是正(解決方法)①》
沖縄では、もしも女性が先立たれたとき、イナグタチクチのご指摘を頂戴しないよう、目上の方々が相当のお気遣いをしてくださることが多くあります。
一例を申し上げますと、トートーメーに女性だけのお名前をご記入するイナグタチクチに該当するとき、中央の札に『歸眞霊位(きしんれいい)』をご記入する方法があります。
この旧漢字の『歸眞霊位』は、新漢字の『帰真(元)霊位』と書かれることもあり、諸説のうち、『先祖代々』と訳されます。この『先祖代々』には、男性・女性の性別も含まれるという解釈から、『歸眞霊位』の書かれているトートーメーは、女性お一人がご記入されていても、イナグタチクチが是正されていることになります。
《イナグタチクチの是正②》
沖縄では、赤色のトートーメーに故人さまの個人情報をご記入することを『本ウンチケー(案内)』といい、これにより、ご法事・年中行事など、故人さまの本格的なご供養が始まるという意味合いを含みます。
この『本ウンチケー』に対し、ご葬儀やナンカ(七日)でご供養するシルイフェーという白木位牌は、『仮ウンチケー』といわれ、『本ウンチケー』の前段階を表しています。
『本ウンチケー』がイナグタチクチにあたることが想像できるとき、地域・家庭によっては、意図的に『仮ウンチケー』のシルイフェーのまま、お仏壇の下座にご安置する方法をお見受けすることがあります。
しかしながら、シルイフェーのままですと、故人さまが成仏していないのではないかというご意見が出てくることも無きにしも非ず。そのためおばさまは、イナグタチクチを問われることはなく、ご供養は赤色のトートーメーに準ずる方法として、黒色のトートーメーに『仮ウンチケー』するという画期的な是正を選択されたのではないでしょうか。
このような沖縄のしきたりのジンブンがあるとき、Gさんの親孝行のお気持ちをお察し申し上げつつも、今回はイナグタチクチを考慮しまして、現状の黒色のお位牌のままが最善のご供養ではないかとご提案させていただきたいと思います。
なお、仏壇・仏具の専門的には、赤色のみをトートーメーといい、黒色はお位牌という製品的な区別もあるとのことですので、ご参照いただければと思います。