琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A トートーメーを壊した父
週刊かふう2022年10月14日号に掲載された内容です。
トートーメーを壊した父
Q:父はお酒を飲むといつも暴力をふるいます。今年のお盆も酔って大暴れし、仏壇のトートーメーを投げて壊しました。今も大破して無残な状態のまま仏壇に置かれています。あまりにバチ当たりで、怖くてトートーメーを触れません。ちなみに親戚のユタのおばさんは「ユンヂチに直すのが一番いい」と言っていますがどうしたらよいでしょうか?(宮古島市・Sさん・20代)
A:Sさん、よくご相談してくださいました。早急に、大切なトートーメーのご対応をお答えさせていただきたいと思います。
《ユンヂチ(閏月)・旧暦七夕》
沖縄では、『ユンヂチ・旧暦七夕は日なし』という格言から、ユンヂチ・旧暦七夕は、日取りや方角、執り行う人などを気にする(とらわれる)ことなく、年中行事・法要などを営むことができるというしきたりがあります。
親戚のおばさんは、このしきたりをご存じのようですね。「ユンヂチに直すのが一番いい」とは、Sさん家にとって、お父さんが壊したトートーメーを直すのにふさわしい、適切なアドバイスだと思います。
次回のユンヂチは、ニングヮチターチャーの来年、令和5(2023)年3月22日(旧閏2月1日)~4月19日(旧閏2月29日)となり、現代的な考え方では、令和5年の1年間にもなります。
また、次回の旧暦七夕は、同じく令和5年8月22日(旧7月7日)となり、拡大解釈『七夕は漢訳(音写〈おんしゃ〉)の意味から7日間』の考え方では、令和5年8月19日(旧7月4日)~8月25日(旧7月10日)にもなります。
親戚のおばさんのアドバイスを参考にすれば、それらの期日にトートーメーを直せばよいということになります。
《トートーメーを直すとは?》
沖縄では、トートーメーについて、親戚のおばさんのように、「直す」という表現を用いることがあります。この「直す」には、いろいろな意味合いが含まれています。
一例をご紹介いたしますと、壊れたトートーメーを修復する、読みづらくなったトートーメーの文字を書き換える、トートーメーを新しく買い替える。また、シジタダシ(筋〈血筋〉正し)やチョーデーカサバイ(兄弟重合)などでトートーメーを移動したり分けたりすることも含まれます。いずれも「あるべきトートーメーの姿に戻す=正す=直す」という解釈があります。
今回、修復することが最優先に考えられますが、沖縄のトートーメーは、漆・金装飾・螺鈿(らでん)など、世界に誇る技法が多く用いられており、場合によってはトートーメーを新しく買い替える金額とさほど変わらないか、もしくは、それ以上に費用がかかることもあるようです。
その場合、一例にもある、直す=新しく買い替えるとの拡大解釈から、新しく買い替えることをご検討される方々もおられるようですので、参考にしていただければと思います。トートーメーから、壊れない過去帳(かこちょう)という折り本タイプに交換することも一案でしょう。
《祖先崇拝に日なし》
前述のように『ユンヂチ・旧暦七夕は日なし』のしきたりはありますが、その期日まで待てないような緊急性を要するとき、ユンヂチ・旧暦七夕に準ずる別の考え方が沖縄のしきたりにあると言います。これが、ユタなどの先生方がおっしゃる、『祖先崇拝に日なし』という考え方です。言い換えますと、『思い立った日が吉日』とでも申しましょうか。
この格言の応用により、ウヤファーフジを敬う真心があれば、毎日がユンヂチであり、旧暦七夕でもあるという、寛大なしきたりとなり得ます。一番いいのはユンヂチ・旧暦七夕ですが、それがまだまだ先でしたら、あくまでも緊急な解決方法として、『祖先崇拝に日なし』の格言があるということも記憶にとどめていただければと思います。
《ご縁のある仏壇・仏具店さまへ》
トートーメーの修復、また、新しく買い替えるときは、仏壇・仏具店さまへご依頼することになるでしょう。沖縄県内の仏壇・仏具店さまに従事される方々は、仏壇・仏具の専門家のみにとどまらず、一般教養・沖縄のしきたり・仏教・儒教・道教など、とても広い見識を持たれています。
『ユンヂチ・旧暦七夕は日なし』は、もちろん、『祖先崇拝に日なし』の格言もご存じです。営業時間帯であれば、ユンヂチ・旧暦七夕だけに限らず、いつでもトートーメーの修復、また、新しく買い替えるご相談にご対応してくださるかと思いますので、ご連絡してみられることをお勧めいたします。
今回の件、Sさん家にとりまして、一大事であることは重々承知の上ですが、できればお父さんを責めないであげてください。あえて何も言わず、トートーメーの修復、または新しく買い替えるSさんたちの後ろ姿を見ていただくことが、お父さんの酒癖の改善にもつながるだろうと願ってやみません。