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琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A お墓の正面玄関

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A お墓の正面玄関

週刊かふう2023年2月3日号に掲載された内容です。

お墓の正面玄関

Q:実家の墓が共同墓地にあり、偶然、目の前の土地を購入することができました。早速、その場所に次男である私たち夫婦の墓を造ることになり、契約まで済ませたところ、誰かが呼んできたムヌシリのお爺さんから、「ムートゥヤー ヌ ハル ヌ ジョーミチを塞いでいるから墓を造ってはいけない」とか「生きているうちに墓を造ると明日にでもグソーに連れて行かれる」と怒られました。見ず知らずの他人の意見ですから気にはしていませんが、噂を流されるのではないかと、その日から妻は体調を崩し、とても落ち込んでいます。この方に反論したいので、実家のお墓の目の前に自分たちの墓を造るときの沖縄のしきたりの考え方があれば教えてください。(名護市・Kさん・60代)

A:Kさん、契約まで済ませているのであれば、今回のご回答は緊急を要しますよね。このムヌシリの先生のアドバイスの根拠を尋ね、対応策とともに、ご実家のお墓の前にKさんたちのお墓を造れるよう、ご一緒に考えていきましょう。

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A お墓の正面玄関

《墓の門道》

 ムヌシリの先生のおっしゃる、「ハル ヌ ジョーミチ」とは、漢字で「墓の門道」と書きます。「ハル」は本来、「畑」を意味する言葉ですが、もとは「原野・原っぱ」のことで、沖縄のしきたりでは、そこにある畑やお墓をも意味する拡大解釈が見受けられます。

 また、「ジョーミチ」=「門道」は「正門の道」を意味しますが、今回、ムヌシリの先生は、「ジョーミチ」を「正面玄関」としてお話されているのではないかと想像します。
 つまり、「ムートゥヤー ヌ ハル ヌ ジョーミチを塞いでいるから墓を造ってはいけない」とは、「実家の墓の正面玄関を塞ぐことになるから次男であるKさんの墓を造ってはいけない」ということになるのでしょう。そういわれてみれば、これはこれで一理あるような気がしないでもありません。

《兄弟墓の上座・下座》

 一方、沖縄では、「チョーデーバカ」と呼ばれる「兄弟墓」の存在が知られています。沖縄のしきたりでは、「チョーデーカサバイ(兄弟重合)」という、兄弟は同じトートーメーやお墓に入ってはいけないという禁忌があり、それならば隣接する場所に兄弟のお墓を造ろうという考え方に発展したのでしょう。
 このとき、正面向かって右側(ご先祖さまから左側)が上座になることから、その場所に実家・長男(兄)のお墓を造り、正面向かって左側(ご先祖さまからの右側)が下座になることから、その場所に次男以降(弟)のお墓を造るというジンブン(教養)があります(実家、兄弟の場所が、左右入れ替わることもあります)。

 上座・下座は左右の横一列で表現するだけでなく、立地条件によっては、前座・後座の前後の縦一列で表現することも多くあります。このときは、後座が上座になることから、一例として、四人兄弟のお墓では、長男のお墓に向かって右側に次男のお墓、向かって左側に三男のお墓、長男のお墓の真正面に四男のお墓を造られているなど、家族構成に合わせた上座・下座文化を継承している現状もあります。
 また、共同墓地の各お墓の前には、「グソーミチ(後生の道)」と呼ばれる通路があります。「グソーミチ」は「私たちの世界からご先祖さまの世界への道路」という意味があり、「ヒンプン(屏風)」のような「魔除け」を兼ねるともいわれています。この考え方を応用しますと、実家のお墓の正面玄関は「グソーミチ」により守られ、結論としてKさんがお墓を造られたとしても塞いではいないということになります。

 これらのことから、実家や長男のお墓の前に次男のお墓を造ることは、決して沖縄のしきたりに反することではありませんので、Kさんご夫妻には、わずかながらでもご安心ください。

 今回、ムヌシリの先生が、もしも私たち同様、専門的な教育を受けられているのであれば、相談内容には守秘義務があるはずですので、噂を流したり、口外されることはまずないでしょう。
 反論についてですが、沖縄のしきたりは地域性により多種多様な考え方があることから、ムヌシリの先生とは「水掛け論」のむなしい会話になることが予想されます。おっしゃりたいことはKさんの胸の内に秘められ、内々にお墓を造る方向で進めていかれることが賢明かと思います。
 来月には、お墓を造るのに最適な「ニングヮチターチャー(旧暦2月が2回)」の「ユンヂチ(閏月)」も訪れますので、奥さまと相談なされ、ぜひ立派なお墓を建立してください。



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