琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 『ナーチャミー』ってなんですか?
週刊かふう2023年4月14日号に掲載された内容です。
『ナーチャミー』ってなんですか?
Q:昨年の祖父の葬式は、台風のときでした。暴風雨の中、お坊さんが「皆さんは風邪をひきますから、私が代表でお墓の外に出てきますね!」と納骨の後、傘もささず、独りでお墓の門から出入りをされていました。それを見た親戚の3人のユタのおばあちゃんたちは、「わかと~やっさ~!」と大絶賛。あれは一体、何をされていたのでしょうか?(豊見城市・Aさん・40代)
A:Aさんのご質問から想像するに、沖縄の伝統的なしきたりの一つである『ナーチャミー』のことをお尋ねされているのではないかと拝察いたします。
《『ナーチャミー』は、『次の日の確認』》
『ナーチャミー』の直訳は、『翌日見』と言い伝えられています。これを拡大解釈すると、『次の日の確認』と言い換えることができます。地域・家庭によっては、同義から、『ナーチャ』が『アチャー(明日)』へと変換され、『アチャーミー(明日見)』とおっしゃる方々も多くおられます。
沖縄では地域・家庭により、大切な儀式・法要の翌日にお礼参りや後片づけを兼ね、ごく少数の方々で再度、ティーウサー(合掌)・ウヌフェー(礼拝〈らいはい〉)を行うしきたりが残っています。
『次の日の確認』の意味は多種多様で、お礼参りや後片づけ以外に、「やり残したことはないか?」「ウグヮンブスク(御願不足)になっていないか?」など、前日に行った儀式・法要の総仕上げも兼ねているとのことです。
『ナーチャミー』は、お葬式を終え、お墓に出向き、大切なご遺骨の入ったフニシンガーミ(骨壺)をウンチケー(案内)する、納骨の翌日に行われるのが一般的ですが、ウスーコー(ご法事)の翌日の『アシゲーシヌウグヮン(足返しの御願)』や、四十九日の翌日の『墓のトゥドゥミ(墓の戸止め)』なども、『ナーチャミー』の一種だといわれています。
《現代版『ナーチャミー』》
火葬が普及していなかった時代、沖縄では、お亡くなりになられた故人さまがお墓の中でよみがえった(黄泉〈よみ〉がえった)、または、よみがえっていたというエピソードを多く耳にします。とある地域では、お墓に納棺して閉めたはずの棺のふたが開いていたとか、とある地域では、その開いた棺の隣の壁に、血のにじんだ深い爪の跡が残されていたとか。大雨のとき、お墓のアマダイ(雨垂れ・庇のこと)で雨宿りをしていたら、中から、前日に納骨されたはずの故人さまの声が聞こえたとかも……。
そのようなエピソードからも、『ナーチャミー』は『次の日の故人さまの死亡確認』の意味もあるのかと拝察いたします。また、『死亡確認』だけでなく、「生き返ってほしい」「迷うことなく成仏してほしい」との遺族感情も含まれているのではないでしょうか。
昨今は、「火葬の時代になれば、故人は荼毘(だび)に付されて生き返ることはないのだから、『ナーチャミー』を行う必要はない」とのご意見がある反面、前述した「生き返ってほしい」「迷うことなく成仏してほしい」との遺族感情を考慮し、翌日とまではいかなくとも、大切な故人さまの納骨に続いて当日に、一度納骨したお墓のウジョー(御門・入り口)から遺族、または代表者が帰宅するそぶりをして出門し、またウジョーに入り直すことによって、簡易的に翌日のお墓参り『ナーチャミー』を表現するしきたりも散見できる時代を迎えています。「わかと~やっさ~!」と大絶賛された3人の親戚のユタの先生方は、きっと、後者のお考えをお持ちだったのでしょうね。
いにしえが現代に伝わる『ナーチャミー』は、遺族の深い悲しみの中にあって、大切な故人さまへの『成仏思想』と『蘇生思想』が複雑に混ざり合う、尊い愛情表現に他ならない沖縄のしきたりではないかと学ばせていただいています。
それにしてもAさん、なんという偶然でしょうか? その台風の中、傘もささず、ずぶぬれになって『ナーチャミー』を行ったお坊さんって……実は、私です(^_^;)。