琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 名前が見えないトートーメー
週刊かふう2023年10月13日号に掲載された内容です。
名前が見えないトートーメー
Q:先日、父の二十五回忌をお勤めさせていただきました。ふとした疑問です。わが家のトートーメーは、最初から、父などの名前が裏の札に書かれ、『歸眞霊位(きしんれいい)』の中央の札以外、ウヤファーフジが表の札からは見えなくなっています。沖縄のしきたりでは、どのような意味があるのでしょうか?(うるま市・Uさん・50代)
A:Uさんは、うるま市勝連南風原にお住まいとのことです。私の体験上、沖縄のしきたりをとても大切にされる風徳・土徳がある地域と存じ上げておりますので、先人のジンブン(知恵)をお借りしながら、その意味を尋ねてみたいと思います
イラスト/帰依剛龍
《トートーメーの役割は家系図と故人の成仏》
トートーメーは、グソー(後生)・ウヤファーフジ(ご先祖)・ウグヮンス(お仏壇)などの敬いの象徴であるほか、さらにたくさんの役割があるといわれています。その中、トートーメーは、家系図の役割を担っているという考え方と、故人さまの成仏を表しているという考え方があるといわれています。
家系図の役割を担っているとき、男女平等であることはもちろん、古式あるトートーメーでは、一段式のとき、グソーヌヒジャイ(後生の左〈正面向かって右〉)は男性、グソーヌニジリ(後生の右〈正面向かって左〉)は女性になることがあります。二段式のとき、上段が男性、下段が女性、ミートゥンダ(夫婦)は上下並びになることがあります。この札の並びを応用することにより、親子・夫婦のみに留まらず、歴代・養子なども表現されているといわれています。時には、ご結婚の回数・ユースー(幼少〈小さなお子さま〉)の有無なども、見る方が見られると一目瞭然になることがあるといわれています。ここから、『トートーメーは家系図』との考え方があるといわれています。
次に、故人さまの成仏を担っているとき、トートーメーの札は数に限りがあることから、成仏の最後を表す三十三回忌のウワイスーコー(終わりのご法事)・シマイジョーコー(仕舞いのご法事)が終了すると、故人さまのご法事も終了することから、故人さまのお名前の書かれた表の札を裏の札へウンチケー(ご案内)するという考え方があります。これは、ある意味、トートーメーの札を最大限、有効に活用するための沖縄のしきたりであるともいわれています。
《トートーメー=昇天位牌》
沖縄のトートーメーには、昇天位牌という別名があるといわれています。それは、『歸眞(元)霊位』の文字が示す通り、成仏された故人さまのお名前を記載するお位牌であるという意味になります。
沖縄では、三十三回忌が終われば、もうご法事はお勤めされることが少ないことから、故人さまのお名前の書かれた表の札を裏の札へウンチケーするという考え方もあれば、逆に今までは成仏の途中であった故人さまが、三十三回忌を終え、昇天=成仏されたと見なし、裏の札を表の成仏の札へ、初めてウンチケーするという伝統的な考え方もあるといわれています。これは、グソーゴクラクと一言ではいえますが、その大変さと尊厳性を表現した、故人さまを偲ぶ、謙虚さからいでる沖縄のしきたりの一環であるともいわれています。
今回のUさんのご質問は、まさにこちらのありがたい事例に該当します。二十五回忌の次のウスーコーである、三十三回忌を終えられましたとき、大切なお父さまのお名前をトートーメーの表の札へウンチケーされることになろうかと思います。
『歸眞〈元〉霊位』の中央の札のみが正面に書かれているトートーメーでは、その裏の札に故人さまのお名前が書かれていることから、今は見えなくても、故人さま(シニマブイ〈霊〉)が迷うことなくグソー(眞〈元〉)へ成仏(歸)されたことを表すイフェー(位牌)であり、それはある意味、『歸眞〈元〉霊位』の原点でもあることを追記させていただきたいと思います。Uさんには、お父さまのお名前が見えないことが敬いにつながる、沖縄のしきたりを踏まえた大変ありがたいトートーメーですので、今まで同様、ぜひとも大切になされてください。