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琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A シマワカイ(島別れ)のしきたり

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A シマワカイ(島別れ)のしきたり

週刊かふう2024年3月8日号に掲載された内容です。

 

シマワカイ(島別れ)のしきたり

Q:祖父の出棺のとき、霊きゅう車を停め、地元にある橋の入り口でお酒を1升こぼしました。塩と米も1袋ずつ撒きました。おばたちからは、「おじいは、サキジョーグー(お酒好き)だったからたくさんこぼしているんだはず」と解説されました。いやいや、それだけじゃないでしょう? 我が家の出棺の儀式には、一体どのような深い意味があるのでしょうか?(名護市・Kさん・ 40代)

A:おじいさまのご出棺、悲しみの中にも厳粛にお勤めすることができたのですね。このように伝統ある沖縄のしきたりを存じ上げているK家さまに、心より尊敬の念を抱かせていただきます。

 沖縄のお葬式には、「トータビ」という、しまくとぅば(うちなーぐち)があり、Kさんのご経験は「トータビ」のうちの「シマワカイ」に該当する儀式かと思われます。以下、詳しくご説明させていただきたいと思います。

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A シマワカイ(島別れ)のしきたり

イラスト/帰依剛龍

「トータビ」とは

「トータビ」は「トウタビ」ともいい、漢字では「唐旅」と書くことがあります。また、「遠い」仏さまの世界に「旅する」という意味から、「遠旅」と書くこともあります。ここでは、「トータビ」を「唐旅」と訳してご説明させていただきたいと思います。
 トータビ(唐旅)は、唐(中国)への旅(渡航)を意味しているという考え方があります。その昔、唐へ旅することは、大変、名誉なことであり、また身命に関わることであったといいます。また、遠方からたどり着いたとしても、エイサー始祖の袋中上人(たいちゅうしょうにん)がご経験されたように、上陸が許されないこともあったようです。
 公的な立場で渡航されることもあれば、交易の立場で渡航されることもあったのでしょう。その旅路は険しく果てしなく、いつしかトータビは、いのち尽きて後(のち)の「グソー(あの世)への旅路」に準ずるとまで言われるようになったといいます。これが、現代の沖縄にあっても、ご臨終・お通夜・お葬式のとき、大切な故人様へ対して、「トータビ、シミソーリヨーサイ(タイ〈してください〉)」と言われる理由だと語り継がれています。

「シマワカイ」とは

「シマワカイ」は、以前、沖縄全島にあった儀式だといわれています。漢字では、「島別れ」と書くことがあります。各先生方のしまくとぅばをうかがってみますと、語源は「ウマイジマワカイ」=「生まれ島別れ」にあるようです。
 直訳では、生まれ育った地元にお別れを告げ、グソー極楽への旅路に就くという意味があるといいます。これらは沖縄のしきたりの学術的なる表層的解釈であり、深層的解釈では、「シマ」をウマイジマというイチミ(この世)の場所だけに限らず、逆転の発想として、「グソー極楽」というグソー(あの世)の場所にも関連させているといわれています。つまり、シマワカイをこの世のお別れといいつつも、同時にあの世のお別れともいい、グソーにもお別れし、行くことすらなく、もう一度この世に生きて帰ってきてほしいとの愛情表現も含まれているとのことです。
 Kさんのおっしゃる橋の入り口でのシマワカイは、河川が地域と地域の境界線になることがあり、ウマイジマの入り口でもあり、出口でもあるという考え方に関連するのでしょう。
 その昔、地域の橋にある道を、龕(がん:故人さまのお棺を御輿〈おみこし〉する祭具)を担いで歩くグソーミチ(道)と呼ばれていたのもその名残ではないかと思います。お酒・お塩・お米は、トータビの手弁当であり、お酒はお清め、お塩はナンジャムンの白銀の宝物、お米はクガニムンの黄金の宝物ともいわれています。

 シマワカイでこぼしたお塩・お米は、ご出棺の場合、担当された葬儀社さまできれいに清掃され、火葬場へと向かわれたことでしょう。Kさん、おじいさまは、お酒が大好きだったのですね。これからのご供養、おじいさまへウチャトウ(御茶湯)・島酒をお供えされるとき、お酒……ほんのちょっとだけ、いつもより多めにお供えしてあげてくださいね。

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A シマワカイ(島別れ)のしきたり

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