琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 臨時のヒヌカン
週刊かふう2025年4月11日号に掲載された内容です。
Q:非常事態です。ヒヌカンを割ってしまいました。理由は、便利さからヒヌカンの横に調味料を置いているのですが、先日、夕飯を作っているとき、調味料と間違ってヒヌカンの香炉の灰を豆腐チャンプルーにまいてしまいました。もー、ビックリ仰天、ヒヌカンに手が当たり落として割るわ、花瓶やマース皿は飛び散るわで悲惨な状況でした。聞くと、ヒヌカンは割ってしまったら12月のウグヮンブトゥチ(御願解き)まで交換できないとか? 9月に娘の結納があり、どうしてもヒヌカンに門出の報告をしなければいけません。私は、割ってしまった残念なヒヌカンに、手を合わせなければいけないのでしょうか?(金武町・Kさん・60代)
A:Kさん、まさに非常事態ではないですか(-_-;) 私もお参り先でご当家の台所を拝見する機会が多々ありまして、多くのお宅でヒヌカンの横に調味料とかミトン(鍋つかみ手袋)とか、いろいろなものを置かれています。時には、ヒヌカンのハナイチー(花瓶)の間に、同じ白色の塩・コショウの小瓶が違和感なく置かれていたりとか(これはこれでオシャレだとは思いますが……)。
普段でしたら手慣れたもの、ヒヌカンと調味料を間違えるミスはないのでしょうが、時間がないときや急いで調理しないといけないときなど、Kさんのような悲劇が起こり得るのでしょう。娘さまのサキムイグスージ(結納)が間近ですので、割れたヒヌカンでは思案されるところだと思います。何か良い方法がないものか、一緒に沖縄のしきたりのジンブン(知恵)を尋ねてみましょう。
灰をもらうヒヌカン・もらわないヒヌカン
昨今の沖縄では、ヒヌカンを仕立てるとき、ご実家の灰はもらわないという新説が広まっているようです。聞くところによると、次世代に評価されているヒヌカンのしきたりのようです。沖縄のしきたりに詳しい方々からすれば、「ん? 仕立てる?」「ウンチケー(ご案内)ではないの?」との声が聞こえてきそうです。
そう、ヒヌカンをウンチケーするときは、ヌーシカタ(ご主人さま)かトゥジカタ(奥さま)のご実家のヒヌカンから、灰を3杯分けていただき、チーシジ(血筋)を大切にしつつ、新しい生活を始めるのが、以前は一般的であったはずです。
多くのシージャーカタ(先輩方)がおっしゃるには、この沖縄のしきたりは、古い歴史があるとのことです。このような経緯がありながら、なぜ、双方いずれかのご実家の灰をもらわないという新説が広まっているのでしょうか? 理由は、「実家の灰をもらうと、実家の良いことも悪いことも受け継ぐことになるから、新しい生活には不都合になる!」などとのご意見のようです。なるほど、それはそれで一理あるような気がいたします。
カリウンチケー(仮案内)のヒヌカン
今回、Kさんのヒヌカンのご対応として、両説の折衷案を応用されてみてはいかがでしょうか? とにもかくにも、9月に訪れる娘さまの門出をつつがなくお祝いすることが最優先ですので、取り急ぎ、割ってしまったヒヌカン・ハナイチー・マース皿などを新調し、シルウコール(白香炉)の灰も新しいものをご準備しましょう。もちろん、この時点では、旧暦12月24日(新暦・令和8年2月11日)のウグヮンブトゥチは訪れていませんので、いずれかのご実家から『灰をもらわないヒヌカン』ということになります。
本来、Kさん家のヒヌカンは、ご質問の内容から、『灰をもらうヒヌカン』であったと想像できますので、カリウンチケー、言い換えれば臨時のヒヌカンでご対応されてみてはいかかでしょうか? 9月を無事、お祝いされた暁には、来たるウグヮンブトゥチのとき、『灰をもらうヒヌカン』に切り替えればと思います。
ユンヂチウトゥーシ(閏月報告)
また、今年は、ユンヂチトゥシ(閏月年)にあたり、新暦7月25日(金)~8月22日(金)が、旧暦閏6月1日~6月29日のルクグヮチターチャー(2回目の6月)に該当します。
多様なニーズに対応できる、このユンヂチウトゥーシを応用すれば、『灰をもらうヒヌカン』『灰をもらわないヒヌカン』いずれであっても、娘さまの門出をお祝いすることができるはずですので、どうかわずかながらでもご安心ください。Kさん、沖縄のしきたりは『幸せの宝庫』ですので、ぜひご参考になさっていただければと存じます。
追記:今後、次の悲劇が起きないよう、ヒヌカンと調味料は別々に置いた方がいいかもしれませんね。