琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A トートーメーと重箱に関する疑問
週刊かふう2020年9月11日号に掲載された内容です。
トートーメーと重箱に関する疑問
トートーメーの「筑登之親雲上」って誰?
Q:うちのトートーメーの中に他人の札が入っています。筑登之親雲上? そもそも読めないし、これは誰ですか? 知らない人ですので、札を外してもいいですか?
(那覇市・Yさん・50代・男性)
A:Yさん、この質問、よく尋ねられます。たしかに読めないですよね。筑登之親雲上は、「チクドゥンペーチン」「チクドノペークミー」などと読みます。
《筑登之親雲上とは》
筑登之親雲上とは、琉球王国の士族(サムレー)の位階(位)の名称を表しています。士族の位階には、殿内(トゥンチ)・里之子(サトゥヌシ)・筑登之の家系があり、筑登之の家系では、年齢とともに、子(シー)から筑登之に、筑登之から筑登之親雲上に昇位していったのだそうです。一部の方々は、筑登之親雲上から親雲上まで昇位したともいいます。
《立口(村〈家〉建て・タチクチ)と筑登之親雲上》
トートーメーの中に筑登之親雲上の札があるとき、多くは筑登之親雲上の前に、○○と名前が記載され、○○筑登之親雲上となります。また、筑登之親雲上の奥様は、家筋(ヤーシジ)の筋目を表すため、名前ではなく、○○筑登之親雲上之妻と記載されることもあります。
この筑登之親雲上は、立口(村〈家〉建て・タチクチ)という元祖(グヮンス)・初代、または二世・三世あたりのご先祖(ウヤファーフジ)様の尊称として用いることが多く、トートーメーでいいますと、正面向かって右側(グソーヌヒジャイ〈後生の左〉)か、中央の歸眞霊位(きしんれいい)の札の左右の上座に安置(ウンチケー)される傾向があります。
これは、里之子・里之子親雲上・筑登之・親雲上の札があるときも同じ考え方になります。ですので、筑登之親雲上はYさん家の大切なご先祖様になりますから、その札を外しちゃダメです(笑)。それに、トートーメーの札を1枚でも外したら、隙間ができて、カタカタしてしまいますよね(笑)。
重箱の「ウチジヘイシ」の作法
Q:重箱のウチジヘイシ(一部返し・交換)をしているとき、「このやり方では御願不足(ウグヮンブスク)だよ~」と、よく祖母から笑われます。重箱の中身を交換するだけなのに、祖母のチェックポイントはどこなのでしょうか?
(糸満市・Uさん・40代・女性)
A:Uさんがおっしゃる通り、重箱などのお供え物(ウサギムン)の中身を、一部ひっくり返したり、交換することをウチジヘイシといいます。
儀式・法要を二回以上お勤めする場合、その都度、重箱は違うものに差し替えなければならないという考え方があります。
でも、家族や親族の人数が少ないとき、用意しお供えした数回ぶんの重箱をお下げ(ウサンデー)しても、食べきれず、もったいないことになる場合があります。このようなとき、一回目の重箱の中身の一部をひっくり返したり、交換することにより、先ほどとは違う重箱とイメージして、二回目以降の新たな重箱と見なす沖縄のジンブンが、ウチジヘイシという作法です。
《個数のマイナス=御願不足》
さて、ウチジヘイシを行うとき、Uさんのおばあちゃんがおっしゃるように、ちょっとだけ気をつけなければならないことがあります。これが、個数のマイナス=御願不足という考え方です。
これは、一部を交換するときに起こりうる可能性があります。例えば、餅重(ムーチジュウ)というお餅の重箱の15個あるお餅のうち、1個を重箱から抜き取り、新しいお餅を重箱に差し込む場合、15個あるお餅が、交換するほんの一瞬だけ14個になる、このマイナス1個が、御願が不足するという考え方です。
これを未然に防ぐには、15個あるお餅のうち1個を抜き取るのではなく、一度、隣のお餅の上に返して置き、その隙間に新しいお餅を差し込んでから、返して置いた最初の1個のお餅をお下げするという手順があります。
このように一度、返して置くことから、ウチジヘイシのヘイシの語源は、ケエシ(ケーシ)、つまり一部返しの「返し」ではないかともいわれています。