僕の好きな風景 第60回 お風呂の灯り
景色が楽しめる、その窓際に低めに調光できる灯りを用意する
週刊かふう2022年6月3日発行号に掲載された内容です。
仕事柄、地方出張が多く、現地で泊まることも少なくありません。
大抵はビジネスホテルに泊まることになるのですが、お風呂に入る時の煌々(こうこう)と明るい照明が、疲れが取れないような気がして、今ひとつ好きになれません。
ホテルのお風呂ですから窓もありませんので、外の景色を楽しむこともできません。
旅館であれば、あれこれとお風呂が楽しめる工夫がなされています。
思い出に残るのは京都の俵屋……江戸末期から続く老舗の旅館。
新館の設計と旧館のリフォームを建築家・吉村順三さんが手掛けています。簡素で小さなお風呂なのですが、小さな窓から中庭が楽しめるようになっており、照明が低く、湯船のすぐ上あたりに位置していて、まるで池に映る月明りのように柔らかくゆらゆらゆれていました。
ゆったりとした気持ちで1日の疲れが取れるかのようでした。
灯りの重心を低くするということがこれほど気持ちいいのか? と感心したものです。
海外のホテルではキャンドルの灯りが用意されているところもあります。
世界中のお風呂好きはいろいろと工夫してバスタイムを楽しんでいる事でしょう。
伊礼智設計室の設計するお風呂は、できるだけ庭や景色が楽しめるように窓を工夫し、照明は俵屋のように低く、キャンドルの明るさから、子どもたちも安心して入れるような明るさまで、調光できるようにしています。
高断熱・高気密の時代となり、性能が落ちるし、どうせ夜しか入らないので風呂場には窓は要らないという人も増えてきました。
しかし、自然光の心地よさ、窓を開けて風呂場をカラッとさせる気持ちよさも暮らしを楽しむために重要な事だと思います。
風呂場が身体だけでなく、気持ちもリフレッシュできる場と捉えたいと思っています。
京都・俵屋のお風呂場の照明は低い位置にあり、癒やされる
伊礼智設計室がつくる標準的な洗面所と浴室。
板張りで一室空間としてまとめ上げる